多様性を競争力に--外国人CSRコンサルタントが考えるダイバーシティの生かし方

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 ダイバーシティにはどのような側面があるのか整理をしてみます。ここに挙げた4つの側面と利点(図参照)は私の定義ですが、まずInclusion & Equal Opportunity--「包容と機会均等」は従業員の満足や離職率の低下につながってきたのではないかと思います。
 

2つ目のDiverse Work & Lifestyles、「仕事と暮らしの両立」はワーク・ライフ・バランスと言われているもので、イノベーションを引き起こすような多様な働き方をどのように管理していくのか、あるいはそれによって生産性向上をどのようにして図っていくのかが大きなテーマとなってきています。

3番目のDemographic Mirroring、「人口構成の反映」はこれからの市場に出ていくときに、進出先の人口構成を反映していかなければ、その市場の理解ができないということです。たとえば、東京の会議室で日本人ばかりが集まって「インド市場をいかにして開拓するか」を議論していては売れるものをつくることはできません
 
 やはりデモグラフィック・ミラーリングのようなかたちで、そういう人たちを組織に取り入れ、本当にその文化に根差したような議論をしなければ、現地発のイノベーションとか、その市場に受け入れられるようなものをつくっていくことはできません。

最後はCultural Sensitivity、「文化的感度・尊重」ですが、この会社は文化的な感度がある、あるいはこの文化を尊重しているということが、その社会において受け入れられるかどうかに直結してくる問題です。ここはこれからの新興国や新・新興国への進出の際に問われる重要な課題であると思います。

こうした側面と利点をいかにして競争力に結び付けていくのかが経営の課題として問われています。たとえば、新規市場の開拓や売り上げの増加につなげることができれば競争力にプラスです。また、レピュテーションや企業ブランド価値向上、新たな人材確保がしやすくなる、離職率が低下する、あるいはカスタマーロイヤルティの高まりに結び付けることができれば、ブランド価値の向上につながり、競争力を高めることができます。

しかし、問題はここには1つの解がないことです。どのような会社であろうと、その会社に競争力があるかどうかを決めるのはわれわれではありません。その会社に競争力があるかどうかを最終的に決める権利を持つのはステークホルダーです。

では、「市民社会・地域社会」「顧客」「投資家・金融機関」「従業員」の4つのステークホルダーの観点から見て、ダイバーシティ・マネジメントがどのように競争力につながるか考えてみたいと思います。なお、行政は法律で決まったことをルールどおり行うのが仕事ですし、メディアはどこか一部のグループの意見を代弁したりすることがありますので外しています。

ダイバーシティ・マネジメントをきちんと行うことがどのような評価につながるのかといえば、まず「市民社会・地域社会」においては労働条件や労働慣行のよい会社として評価・表彰されます。
 
 コミュニティの多様なニーズに耳を傾けエンパワーメントを含む社会協働・投資を行なう企業としても歓迎されるでしょう。こうしたことが世界に進出するときには、「ぜひあの会社に来てほしい」という関係につながると思います。

「顧客」との関係においては、たとえば「従業員によい会社」として好感を持たれる、実際にお客さまから「あの会社はいいね」と言われればコーポレートイメージやブランド力に寄与します。あるいは少数派のニーズも含めて多様な顧客ニーズに敏感で、革新的に応える企業としてお客さまの支持を得ることができると思います。

「投資家・金融機関」との関係では、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックスやフィナンシャルタイムズのFTSE4Good GIndex Seriesといったサステナビリティ指標で高い評価を得ることができます。また、投資家が市場開拓や商品革新に優れた企業として、あるいは多様な要素を取り入れマネジメントしている革新性に優れた会社として、将来への期待を持つようになるかもしれません。

「従業員」は外部のステークホルダーではありませんが、従業員になる前は外部ステークホルダーです。入社前にはダイバーシティ・マネジメントの実践が、「働きたい会社」として注目される重要な要素となります。入社後はダイバーシティ・マネジメントやワーク・ライフ・バランス・マネジメントによって、勤め続けたい会社、士気高く働ける会社としての満足感の向上につながると思います。

価値創造のためのダイバーシティ・マネジメントの位置づけと役割

一歩進めて、持続的な価値とダイバーシティの関係を考えてみたいと思います。ダイバーシティはCSR全体の中で重要な柱の1つです。そして、ここで言うCSRとはSustainable  Value(持続する価値あるいは持続的な価値)を創出・維持することにありますが、サステナブルバリューを創出・維持するに当たってダイバーシティはいったいどのように寄与していくのでしょうか。

サステナブルバリューを創り維持していくということは、「環境・社会価値の創出」と「企業価値の向上」がポジティブスパイラルを生み出していくということです。そうしたポジティブスパイラルを生み出していく際に、ダイバーシティはどのような役割を担うのでしょうか。

「社会価値」としては、自社の業界や市場において重要な社会的課題・環境的課題解決へ関与をしているということが社会価値につながります。こうした取り組みをすることによって「企業価値」、たとえば事業の継続や成長(発展許可)をする権利を得ることができます。さらにレピュテーション・ブランド価値の向上につながり、有望な人材を惹きつけ、従業員満足を高めることにつながります。「社会価値」と「企業価値」との間には、トレードオンの関係を実現することが重要です。

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