あの青いゴミ箱のルーツは「肥桶」だった 雑誌タイプの社史を読んでわかったこと

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営業員は「万能桶」と名前を変えて、桶として使ってもらえそうな工場・食品業者など、あらゆる職種・業種にセールスを展開していきます。自衛隊の給食用の米飯容器や、拘置所の便器としても売り込んだそうです。

もともと肥桶として作られた製品だったので、東京都の清掃局の、し尿処理担当の部署にも赴きましたが「バキュームカーへの切り替えが進んでいるので、検討の余地は少ない」と言われます。帰ろうとする営業員に「東京オリンピックまでに、街からゴミ箱をなくす方法を知事が考えたいと言っていた。ゴミ処理担当の部署にも行ってみてはどうか」と言われ、サンプルとカタログを提出しておきました。

衛生美化を模索していた東京都

その当時の家庭ゴミは、家々の前に作り付けられた木製の箱などに出されていました。しかし、回収の際、かき出しきれずに残ったゴミが悪臭を放ったり、虫が湧いたりします。東京都では、オリンピックを前に衛生的なゴミ箱と収集法を模索している最中だったのです。

数カ月後、清掃局から矢崎化工に「生ゴミ用の容器として使用テストを実施するので、万能桶500個を購入したい」と突如連絡が入りました。

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矢崎加工株式会社の社史。万能桶誕生秘話が綴られている

万能桶は軽くて扱いやすく、フタをすれば臭いも少ない、水洗いもしやすいなど、多くの利点が評価され、ゴミ収集容器として東京都から指導品第1号に指定されました。オリンピックの開催時に、街にあった古い作り付けのゴミ箱はほとんど姿を消していました。社史では「東京の風景を変えてしまうほどの数の万能桶を作り続けたのだった」と振り返っています。また現在では、渇水・断水や、災害などの際にも活躍しているそうです。

買い物時の必需品も生み出す

スーパーマーケットの、レジ清算後の詰め替え台に置いてあるリール巻のポリ袋も矢崎化工が日本で初めて作った製品です。当初、この製品はあまり売れなかったそうですが、北海道では売り上げを伸ばしていきました。北海道の営業員たちが、魚市場でセールスを続けた結果です。「市場の人たちと同じ頃に行っては売り込みができないので、前の晩から車で待機して、市場の人が出勤してきたところを狙ったんです」とOBの声が紹介されています。北海道で売り上げを伸ばしたリール巻は、全国に波及していき、魚市場に限らず、あらゆるところで使われるようになりました。

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