日本でも海洋資源開発のエンジニアリング企業の強化・育成を

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 特に尖閣諸島水域などその海底鉱物資源が外国との領有権戦争の主たる要因となっているようなところでは、資源の種類、賦存状況、地政学的見地、本邦開発会社の有無等を勘案して、国益の観点から、特別の法制度が用意されるべきである。

一方、ブラジルでは97年施行の新石油法により、外資にも内資と平等に権益参加を認め、これによって世界のメジャー、準メジャーが海上油田開発に乗り出し、結果として油田開発拡大とともにペトロブラスが巨大企業として成長することができた。
 
 この点、憲法で石油権益への外国資本を排除して、原油生産が急速に減少しているメキシコとの相違が顕著である。自国原油生産拡大に外資メジャーを活用することで開発リスクの分散と資金不足を補い、その過程で技術的にも資金規模的にも世界的な技術水準に育ったペトロブラスを、今ではブラジル政府は、資源戦略のビークルとして積極的に活用しているのだ。

06年に発見された巨大な塊の油田層であるプレサル油田開発に当たり、従来の権益方式でよいのかという議論が起こった。背景としては、権益のロイヤルティさえ払えば、その原油所有権はすべて開発利権者に帰属してしまうということでよいのかという疑問、またロイヤルティ収入を油田所在の一部の限られた州が独占している不公平をどう解消するのかという問題があった。
 
 結局、プレサル油田開発は、国家の戦略的地域として従前の油田開発の権益方式は採らず、地下資源自体は国家に帰属することを前提に生産分与方式を採用した。生産分与方式による巨額の石油収入は社会福祉充実のために中央政府が管理し、社会福祉基金(Petrosal)が創設される。同時にすべての油田鉱区開発に関して、ペトロブラスに最低30%の生産シェアを保有させるとともに、同社がすべての油田開発オペレーターとなることにしている。
 
 プレサル以外の開発は従前の権益方式を維持しつつ、戦略的なプレサル油田開発には、国益のために特別の制度を導入するものである。オペレーターにしても、これまで外資とともに操業してその能力水準を高めてきたペトロブラスに独占させるわけである。

戦略的に重要な地域への特例的な対応は、わが国の特区制度としても十分採用可能であり、むしろ後発のメリットを生かして、生産分与方式を前提とする特別例外地域を設けるべきである。生産分与方式で政府の取り分を最大化して社会福祉を増進するとともに、造船をはじめ関連産業の振興を図るのである。

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