ロッキーの「冷凍肉トレーニング」がケアだった訳 自分の夢を仮託したくなる社会的存在への変容

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僕は工場で拳に血をにじませて凍った生肉を殴り続けるロッキーの姿に、1人の人間の力ではどうしようもない、弱いものがいつまでも弱い立場のまま硬直化していく社会への苛立ちを感じたのです。

冷凍肉を殴り続けるという「ケア的な行為」

政治思想家の白井聡は、工場で働くことが人間にもたらす効果について、マルクスを引きながら以下のように述べています。

工場は何時から何時までという操業時間が決まっていて、シフト体制があり、それぞれの持ち場も決まっています。「俺はこんなつまらない作業はやりたくない。自分の好きなことをやる」というわけにはいきません。生産量を決めるのももちろん労働者ではない。
つまり、具体的な働き方を資本の側が決めるようになっていく。その資本の側が決める度合は、時とともにどんどん高まっていった。工場と言っても、職人的労働が主流であるときには、包摂の度合は低いのです。なぜなら、具体的な労働過程の有り様が労働者の手腕、したがってその裁量に委ねられざるをえないからです。
熟練や特殊技能を要する作業が、機械等の発展によって「機械+単純労働」に置き換えられてゆくと、包摂の度合はグッと高まります。その究極の形態がベルトコンベアのラインにおける工場労働で、人間が機械の一部にさせられてしまうような状態です。このように労働過程をまるごと資本が形づくってしまった状態を、マルクスは「実質的包摂」という概念でとらえたわけです(白井聡『武器としての「資本論」』2020年、63-64頁)

工場は人間を資本に包摂してしまう装置であり、技術的に機械のレベルが上がるほど、その包摂の確度、速度も向上していきました。

ロッキーが精肉工場で冷凍肉を殴り続ける行為は文明史的な意味での抗議運動であり、親友ポーリーに対する「ケア的な行為」としても見ることができます。

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