「子どもには新しい経験を!」親の願望に潜むワナ 発達障害の臨床医が教える「逆説的子育て論」

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結果として同じ道を通るのなら、最初から「いつも同じ道を通る」という姿勢を見せたほうがいいのです。ルーティンにこだわる子は毎日、判で押したように同じことを繰り返していると、安心感を持ちます。安心してのびのび過ごしていると、むしろその子のほうから違う道順に興味を持つこともあります。

逆説的なようですが、無理に新しい経験をさせないほうが、余裕ができて、視野が広がるという子もいるのです。

自閉スペクトラムタイプの子育ての極意

自閉スペクトラムの特性がある子は、安心・安全が保障された環境で育っていくと、自分から新しいことに取り組めるようになっていきます。

親がリーダーシップを取って、子どもに「安心して気持ちよく、いろいろな活動ができる環境」を提供していくことが、子どもの自発性の発達につながっていくのです。

自閉スペクトラムの特性がある子の場合、親が焦っていろいろな経験をさせようとするよりも、構造化された環境で同じことを繰り返していたほうが、経験の幅が広がっていくことがあります。「判で押したような生活」をしていたほうが、あとで融通がきくようになる。自閉スペクトラムタイプの子育ては、逆説的なものなのです。

親が「こうしてほしい」「こう育ってほしい」と思うことをストレートに実践しようとすると、だいたい裏目に出ます。子どもが「こうしたい」と思っていることを汲み取って、さりげなく仕切っていくほうがいい。親が意識の切り替えをできるかどうかが大事です。

子どもを理解しながら流れを仕切るのは大人

私が「子どもの気持ちを汲んでやってください」と言うと、「子どもの言いなりになるということですか?」と抵抗を示す人もいます。しかし、気持ちを汲むというのは、そういうことではありません。

子どものやり方やペースを理解しながらも、流れを仕切るのは大人です。大人がリーダーシップを取りながら、子どもの希望をとり入れていくのです。

人間は「どうぞご自由にしてください」と言われると、かえって不安になることがあります。何をすればいいのか、迷ってしまうことがある。枠組みを設定してもらったほうが、自分のやりたいことを選びやすくなります。特にまだ小さい子どもの場合には、そのような傾向が強いです。そこで、大人が「枠組み」を用意するわけです。

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