発売日に20億売れた「名酒風味の珈琲」人気のワケ 田中角栄も飲んだ「茅台」の若者取り組む戦略

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醤香ラテは通常、luckinのアプリからクーポンを取得して注文するが、茅台のアプリも割引クーポンを配布しており、同社のアプリの認知拡大やダウンロード数の増加も期待できる。

アルコールメーカーは卸売店や代理店経由の販売が中心で、消費者との接点を増やすためには直接販売の比率を上げる必要があるが、既存販路の反発が予想されるため、踏み切れないという事情もある。

アイスクリームやコーヒーなど異業種への参入ならば、卸売店を脅かすこともない。醤香ラテは、消費者だけでなく業界内でも「うまいやり方」と評価が高い。茅台は9月中旬に中国のチョコレートメーカー「DOVE」とコラボした茅台チョコもECで発売した。こちらも一瞬で品切れし、転売市場でプレミアムがついている。

カフェチェーンとFENDIのコラボも

茅台のコラボが脚光を浴びたことで、アルコールメーカーによる異業種コラボは珍しい取り組みではなく、前例が多くあるという事実も注目されている。ただし多くが話題にならず終わった。

知名度で茅台と双璧を成す白酒の「五糧液」は2018年に高級ティードリンクチェーンの「喜茶」とアイスクリームを発売。四川省の白酒メーカー「瀘州老窖」は香水、アイスクリーム、チョコレートと続き、今年8月にティードリンク「奈雪的茶」とコラボ。乳飲料メーカーとも中秋節に合わせて「月餅アイス」を共同開発した。

青島啤酒(ビール)も夏にアルコールを含んだアイスクリームを売り出している。醤香ラテのヒットで、今後も類似コラボが相次ぐのは間違いない。

カフェチェーンやドリンクチェーンも毎月のようにコラボ商品を発売しており、今年はラグジュアリーブランド「FENDI」と喜茶という組み合わせもあった。ブランド力がある企業同士のコラボはSNSで話題になりやすいが、多くは一過性に終わってきたし、企業も話題作り以上の効果を求めていないように見える。

決して新しい取り組みではない異業種コラボで、茅台とluckinがこれほどのヒットを生んだのは、歴史や客層、価格帯が全く重ならない2社の組み合わせが消費者に驚きを与えたことと、どこにでもあるluckin coffeeの店舗で希少性の高い茅台を味わえるという訴求ポイントの明確さ、そして茅台の高いブランド力と、Z世代を取り込む努力の本気度があってこそだろう。

茅台は醤香ラテのヒット後、定番品として発売していく意向を表明している。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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