ビジネスの難解用語を「絵と事例でザックリ解説」 サイゼ、大塚製薬、モス、進撃の巨人が凄いワケ

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カスタマージャーニーの成功例『進撃の巨人』

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4PのうちのPlace(販売チャネル)とPromotion(顧客コミュニケーション)は、今日では切り離せないものとして一体運用します。その典型がカスタマージャーニーです。

どう知ってもらい、どう好きになってもらって、最終的にどこで購買させるか。までをデザインする手法です。

認知を獲得するための方法と、興味や欲求を高めるための方法は違うということがカギです。認知度を上げるのは広告やSNSで良いですが、興味・欲求を高めるうえでは、もう少し密なコミュニケーションができる媒体に誘導する必要があります。

(『ザックリ経営学』より)

カスタマージャーニーを描き出し、そこでの顧客の行動や感情を分析し、課題を検討し、解決案を出す……という図の分析をとくにカスタマージャーニーマップと呼びます。

精緻にカスタマージャーニーを磨きぬくときに用います。そこには顧客のペルソナがきちんと描かれていることが大切です。具体的な顧客イメージが描ければ、その顧客が普段どういう媒体を使っているのか、どういうところで買うのか……ということが見えてくるのです。

企業事例:講談社と『進撃の巨人』
 

圧倒的な力をもつ巨人に対して、人類が、絶望的な状況のなかで決死の挑戦をする、『進撃の巨人』はそんな「王道の少年漫画」でありつつ、ショッキングな表現と、魅力的なキャラクターたちで、誰をも惹きつけるような特徴を備えていました。
広告やSNSでも、そうした王道的な特徴が強調され、幅広い認知を得ることに成功しました。
しかし、ストーリーが進むと、話は思いがけない方向へと進んでいきます。幾重にも張り巡らされた伏線、舞台装置をひっくり返すような展開が続きます。そうした「謎かけ」を、本誌や各種記事として仕掛けていき、「あの漫画は単なる王道ものじゃない」と話題を作りました。
その結果、ブログや動画サイトで考察が行われるようになります。こうして「あの漫画は何かすごいらしい」という感情が潜在顧客の中で育ってきたタイミングで、新刊を大々的に書店店頭に並べたり、コミックアプリ「マガポケ」で既刊分を無料公開するなどして、丁寧に購買につなげました。
『鬼滅の刃』なども同様ですが、近年の漫画作品は十分な認知と、そこから興味をかきたてるような2段構えの構成を土台に、それを広告戦略=カスタマージャーニーに落とし込むことで、ヒットを生み出しています。

中川 功一 経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役

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なかがわ こういち / Koichi Nakagawa

1982年生まれ。2004年東京大学経済学部卒業。08年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。大阪大学大学院経済学研究科准教授などを経て独立。現在、株式会社やさしいビジネスラボ代表取締役、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」学長。専門は経営戦略、イノベーション・マネジメント。「アカデミーの力を社会に」を使命とし、経営スクールを軸に、研修・講演、コンサルティング、書籍や内外のジャーナルへの執筆など、多方面にわたって経営知識の研究・普及に尽力している。YouTubeチャンネル「中川先生のやさしいビジネス研究」では、経営学の基本講義とともに、最新の時事解説のコンテンツを配信。

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