浅田真央を復帰に導いた「感情コントロール」 「後悔」は一生自分を攻撃し続ける原因になる

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「最悪の事態」とは、ワーストシナリオ。つまりダルビッシュ選手の場合、もうメジャーリーグの投手として再生できない可能性もあることに備えたのでしょう。しかし、リハビリが順調に進むことで、エースに返り咲ける可能性はあり、また今までと違うピッチングスタイルを披露することができるかもしれません。ワーストシナリオとともに、対極にあるハッピーシナリオに備えることが、モチベーションにつながるのです。

ワーストシナリオは、踏ん切りをつけること、そして腹をくくること。そのうえでハッピーシナリオを目指す。今、浅田選手もこのような心境にあるのではないでしょうか。

キングカズと真央ちゃん、賢明なる共通点 

もう一つ例を挙げましょう。先ごろ、野球評論家の張本勲氏が、テレビの生番組で、48歳になってもなお現役を続ける横浜FC(J2)の三浦知良選手(キングカズ)に対し、「(J2は)野球で言えば2軍のようなもの。もうお辞めなさい」と引退を促すような発言をしたところ、三浦選手は、

「『もっと活躍しろ』って言われているんだなと思う。『これなら引退しなくていいって、オレに言わせてみろ』ってことだと思う。(中略)張本さんが活躍されていたことは今でも覚えているし、憧れていた。そんな方に言われて光栄です。激励だと思って、これからもがんばります」

と答えました。

この発言に、マスコミ報道やネット上で賞賛の声が集まり、三浦選手の大人の対応に張本氏は翌週の放送で三浦選手を、釜本邦茂氏や長嶋茂雄氏といった、往年のスーパースターになぞらえ絶賛することになります。

同じような大人の対応を、浅田選手も以前しています。森喜朗・元首相が、浅田選手のソチ五輪におけるミスに対し、やはりテレビ番組で「大事なときには必ず転ぶ」と発言したことがありましたよね。

五輪終了後、海外メディアから「森元首相の発言を聞いたときの気持ちは?」と聞かれた浅田選手は、終始笑顔で、

「もう終わったことなので、なんとも思っていないですけど。聞いた時は、『あぁそうなんだ』と思いました」

と答えています。すると、森元首相は、「孫に叱られたようで……」とバツの悪い反省コメントを出すはめになったのです。

三浦選手にしろ、浅田選手にしろ、超一流のアスリートは、外野からの不快なコメントをサラリと受け流す術をわきまえているのでしょう。相手と同じ土俵に上がらず、意地悪な発言に振り回されないのですね。

アンガーマネジメントでは、怒りの感情が表出するメカニズムを「人間の心の中に『コップ(器)』があり、コップの中に様々なネガティブな感情が溜まっていって、やがて怒りになって溢れ出る」と説明しています。

両選手は、心の器が大きく、そして怒りのもととなるネガティブな感情(第一次感情)を適宜コップから抜いているのでしょう。日本中の期待を背負う有名人だけに、周囲からの雑音が入ってくるでしょうが、両選手ともそれを上手にかわし、自分にとってなにがいちばん大事かを冷静に考えているはずです。

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