孤高のTDKに試練、ハードディスク業界の再編加速の波紋

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 一方、TDKの上釜健宏社長は4月27日の決算説明会で「われわれの磁気ヘッドの販売が大きく減るとは見ていない」と強気だった。根拠は最終消費財メーカーによるシェア調整が行われ「1足す1は2にならない」との読み。統合再編後はパソコンメーカーなどの客先が、リスク分散や価格競争のため調達先を増やし、現在11%しかない東芝のシェアも伸びるという見方だ。事実、06年のシーゲイトによる米マクスター買収では同様のことが起きた。

上釜社長はHDD用磁気ヘッド事業を世界シェアトップに引き上げた立役者。その発言に株式市場も反応し、サムスン買収の報道以来4000円割れもしたTDKの株価は、4200円台水準へ回復したほどだ。

だが、テクノ・システム・リサーチの馬籠敏夫シニアディレクターの見方は否定的だ。「東芝の市場シェアは大きく変わらず、事業環境はより厳しくなる。東芝には今後、大幅な構造改革や事業撤退という最悪な選択肢もありうる」。HDD市場全体はすでに成熟期に入っており、統合による生産規模の効果がストレートに表れる。東芝がHDD事業を再建できなければ、TDKにとっても苦しいシナリオが待っている。

スマートフォン出遅れ コンデンサーも苦難

TDKが抱える問題はこれにとどまらない。磁気ヘッドと並ぶ収益柱である受動部品事業も厳しい。特に最先端部品に搭載される積層セラミックコンデンサーが足を引っ張っており、首位を快走する村田に大きく水をあけられたばかりか、09年には太陽誘電にも逆転を許した。

中でも出遅れが目立つのがスマートフォン向けだ。村田と太陽誘電の2社がシェア9割近くを占めスマートフォン特需を満喫する中、TDKは前期も30億円近い営業赤字を垂れ流したようだ。業界関係者は、「TDKは06年ごろから歩留まりや生産効率の面で遅れていた。価格と信頼性が勝負の業界。競争力の低下は命取りだ」と分析する。バークレイズ・キャピタル証券の越田優アナリストも「ここまで大幅に出遅れてしまうと今後の巻き返しはそうとう困難」と指摘。今や事業再構築を求める市場関係者の声は多い。

試練に立たされたTDK。長年トップに君臨した澤部肇会長が6月末で代表権を返上し、上釜社長のみが代表権を持つ経営体制に移行する中、どういう経営判断を下すのか。

◆TDKの業績予想、会社概要はこちら

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(伊藤崇浩 =週刊東洋経済2011年5月28日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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