判断と決断--不完全な僕らがリーダーであるために 中竹竜二著

判断と決断--不完全な僕らがリーダーであるために 中竹竜二著

リーダーの指南書なるものは多々ある。本書はよくあるリーダーはどういう行動をとるべきか等をまとめたものではない。「判断」と「決断」という切り口で、著者独自のセオリーを生み出している。 

著者はラグビー界で、リーダーとして成果をあげてきた人物であるが、彼のリーダー論はビジネスなどでも十分、応用できる。

著者は長年、早稲田大学ラグビー部のキャプテンや監督を務めてきた。監督時代には、大学選手権で2連覇を達成している。経歴だけをみれば、指導者のエリートという印象をうける。現在でも日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターとして、キャリアを積んでいる。

だが、意外なことに、著者自身が常に悩みもがいてきた。ラグビー部の監督就任時には、前任のカリスマ監督と比べられることもあった。自分はカリスマ性のあるリーダーではないとわかっていた。失敗や挫折も数多く経験した。もがきながら、著者は「判断」と「決断」の重要さに気づいたのだ。

リーダーは、「判断」と「決断」を下す機会は多い。著者はこの2つを定義づける。

「判断とは過去について評価すること」「決断とは未来への方向性を打ち出すこと」

リーダーとして、組織のゴールを目指すにはこの2つをどう使えばいいのか、本書は著者がラグビー界で経験したケースを元に、わかりやすく具体的に説いている。

1つの印象的なケースを簡単に紹介する。

著者の早稲田大学監督時代に、小杉というプレーヤーがいた。彼は信望厚いリーダーであった。誰からみても彼に勝るリーダーはいなかった。しかし、著者の当時の決断は、決勝戦の1週間前にも関わらず、小杉をチームから外すことだった。

なぜ小杉を外すことにしたのか。リーダーとしては申し分ない。外す理由もない。彼のポジションでのパフォーマンスが少し落ちていただけ。だが、決勝戦の相手と戦ったときに、小杉を試合に出すことで、試合に負けるという最悪のシナリオが想定できた。

小杉を外すリスクは、チームにボイコットされること。逆に小杉を外さないリスクは試合に負けること。

そこで著者は小杉がリーダーとして築きあげたチーム力は崩れないと踏んだ。著者は決断した。めざす未来(この場合は優勝)を見据えて、深く考え抜いた決断だからだ。覚悟があった。結果、優勝した。

あらゆるケースを想定し、著者は「小杉を外す」と、苦しみながらも決断した。そこには、あらゆる想定からの判断と、深く考え抜いた決断とその先のシナリオがあった。新しい未来を打ち出すのは簡単ではない。ただ、簡単でないゆえに、決断をして、新しい未来をつくりあげられたときは、喜びを実感できるであろう。

本書は、思い悩みながらも、組織のゴールに向かって奮闘しているリーダーに、勇気をくれ、且つ、背中を押してくれる。

(フリーライター・荒幡 幸恵)

東洋経済新報社 1600円

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