「はぐれ者」北朝鮮とロシア接近に中国はどう動く 混迷に向かう北東アジア、矛盾する中国の戦略

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多くの国民が食糧不足に苦しみ、餓死者さえ出ているといわれる最貧国・北朝鮮の指導者が、訪問先のロシア・極東地域で視察したのはロケット基地や航空機製造工場、ロシア軍太平洋艦隊と軍事関連施設ばかりだった。

一方のロシア側は北朝鮮の軍幹部らに、これ見よがしに先端技術の一端を誇示した。両国の国民が直面する悲劇的な現実から乖離した為政者の異様な振る舞いは、国民生活の安定とは無縁の、ロシアと北朝鮮の緊密な関係の演出でしかなかった。

首脳会談で何が話され、何を合意したのかなど一切、公表されていないが、事前にアメリカ政府が盛んにリークしたように、北朝鮮からロシアへの砲弾などの提供、ロシアから北朝鮮へのロケット技術などの提供という実利丸出しの会談だったであろうことは想像できる。

ロ朝会談に中国は沈黙

興味深いのは、ロ朝の一連の動きに対する中国の沈黙だ。プーチン大統領と金正恩総書記の会談について、中国政府は意味あるコメントを一切公表していない。

アメリカは今、ブリンケン国務長官をはじめ閣僚を次々と中国に派遣し、米中関係改善の機運を高めようとしている。

金正恩がロシアを訪問している同じタイミングで、サリバン大統領補佐官と王毅共産党政治局員兼外相が地中海のマルタで会談していたことも明らかになった。11月にサンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議でバイデン大統領と習近平国家主席の会談の実現がその目的だろう。

中国も低迷する国内経済を考えると、アメリカの働きかけを簡単に無視するわけにはいかない。

一方で中国は、国際社会で孤立を深めるロシアを見捨てるわけにはいかない。国連の場などでロシアに対する非難の防波堤の役割を担い、ロシアとの関係を維持しようともしている。サリバンとの会談後、中国は王毅外相のロシア訪問を公表した。ロシアへの対応も手抜かりがない。

さらに中国には発展途上国の一員として「グローバルサウス」の代表を担うという戦略もある。10月には「一帯一路」首脳会議を開く予定で、90カ国の代表が参加予定だという。

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