ビンラディン殺害、世界は何におびえたのか

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サウジから追放されたも同然のオサマは、父の建設会社があったスーダンに亡命した。ただそこも安住の地ではなく、米国の圧力もあり、タリバン支配下のアフガニスタンに客分の形で移っている。そしてアフガニスタンからも、米国の侵攻によって、逃げざるをえなくなった。最後はパキスタンで生涯を閉じた。

いったいオサマは何を、国際テロ活動で実現しようとしたのか。誰もが、スンニ派イスラム原理主義の立場から、米国が支配する「国際秩序への挑戦」と答えるだろう。だがオサマの本音は、「米軍のサウジからの撤退」ではなかったか。イスラムの聖地であるサウジに米軍が居座ることは、オサマにとって絶対許せなかったことだろう。それも同時多発テロ後の03年8月に、米国はサウジから完全に撤退しており、米空軍の湾岸における本拠をカタールに移転。以降、瞠目に値するような、アルカイダのテロは起こっていない。

アルカイダはインターネットで結ばれ、体制に不満を抱えている富裕層の子弟や知識人の緩やかな集団、ととらえられている。中央集権的な指揮・命令系統を持つ強固な組織と違う。オサマ自身もアルカイダの最高指導者を自称しなかったはずだ。メディアで繰り返されているように、はたしてこうした組織のアルカイダが、懸念される「オサマ殺害の報復テロ」を本当に起こせるのか、疑問は残る。いずれにしても、オサマの死によって、21世紀最初の10年間を規定した時代は終わった。

(内田通夫 =週刊東洋経済2011年5月21日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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