ビンラディン殺害、世界は何におびえたのか

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2011年5月1日夜。世界に衝撃を与えた「9・11同時多発テロ」の首謀者、オサマ・ビンラディンが米軍によって殺害されたことを、米政府は発表した。作戦を命じたバラク・オバマ米大統領は、「正義は下された」と勝利宣言した。

米大統領の人気が回復 身柄拘束しなかった“謎”

米国民はオサマ殺害の報道に驚喜している。直後のNYタイムズの世論調査によれば、低迷していたオバマ大統領の支持率は一気に11%上昇し、57%まで回復。12年に向けて、再選を目指すオバマ大統領にとって、オサマ殺害は絶大な人気回復効果をもたらし、11年から始まる選挙キャンペーンへの跳躍台になった。

オサマはパキスタンの首都イスラマバード北約50キロメートルにある、アボタバードの邸宅に潜伏していたところを、アラビア海の空母からヘリコプターで出撃した米海軍特殊部隊に襲撃された。戦いは一方的であり、その遺体は米空母に運ばれ、DNA鑑定で身元が確認された後、水葬に付された。イスラム教の慣習では、遺体は土葬して、石造りの墓を残す。米国が最重要人物を慌ただしく水葬したことに対し、疑問と反発がイスラム世界で起こった。

潜伏していたアボタバードは、パキスタン陸軍士官学校がある軍事都市で、富裕層も多く住む都市。米国から2500万ドルもの賞金を懸けられ、指名手配された人物が潜伏するにはふさわしくない。政治的に大きな影響力を持つ、軍や統合情報部の一部勢力がオサマをかくまっていたのではないか、との見方が出るのは当然だ。今回の襲撃は通告なしに行われ、パキスタン政府は恥をかかされる結果になった。米国の行為はアフガニスタン戦争をめぐり、タリバン勢力との腐れ縁を清算できず、米国に面従腹背の態度をとるパキスタンを牽制する意味もあろう。


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