「オールブラックス」が海外で稼ぎ始めた理由 ラグビー不人気の米国でも6万人超の大観衆

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だが、ニュージーランドの人口は約440万人。「オールブラックスブランド」を維持するには、国内にとどまっていては限界がある。欧州のプロリーグなどへの選手流出も続く中で、有力な選手を引きとめておくためには、かなりの「稼ぎ」も必要だろう。

オールブラックスの魅力を「数字」でも説明するニュージーランドラグビー協会のキャスGM

「日本を始めとして、自国の代表に次いでオールブラックスが好きという人が世界には多くいる」(ニュージーランドラグビー協会のゼネラルマネージャー、ナイジェル・キャス氏)。

オンラインのサポータークラブでは450万人の会員のうち、8割はニュージーランド以外に住む人だという。

となれば、「オールブラックス」ブランドを積極活用しない手はない。実は「マオリ・オールブラックス」もかつては「ニュージーランド・マオリ」という名称だった。

国の代表チームが海外でのファンの裾野拡大に傾注するなど、ラグビーだけでなくほかのスポーツにもおそらく例がないだろう。

テストマッチの勝率は76%、宿敵豪州戦も優位

ではなぜ、オールブラックスが世界中のファンをひきつけるのか。最大の理由は「強い」からである。国の威信をかけて戦うテストマッチでの主な国との対戦成績は402勝105敗19引き分け。実に8割近い勝率を誇る。「ワラビーズ」の名で知られる宿敵、豪州代表とのテストマッチでも152戦のうち104勝と圧倒する。

2011年にニュージーランドで開催されたW杯も制覇。ラグビーの場合、W杯が始まったのは1987年とサッカーよりも歴史が浅い。それまでは、どこの国がいちばん強いのかを知るすべもなかった。オールブラックスはこれまでに行われた7回のW杯のうち、2回優勝を果たしている。「W杯がオールブラックスブランドの浸透に大きな役割を果たした」(大手広告代理店幹部)。

1814年の創設以来、黒いジャージーをまとっているのもチームに独特の雰囲気を醸し出す。試合前に選手が演じる「ハカ」も魅力の一つだろう。「ハカ」の由来は、戦いに挑むマオリ族の踊りの儀式。「パフォーマンスというよりも選手間のコミュニケーションを図る手段」(文化顧問のルーク・クロフォード氏)。

慎重にではあるが、ニュージーランド以外のファンを開拓へ。文化顧問のクロフォード氏によると、今後オールブラックスは、アジアや北米を一段と開拓する方針だという

ハカを通じて選手たちは意思統一を図り、精神を高揚させる。相手チームを威嚇するかのように首をかき切るポーズを演じ、刺激してしまうことも少なくないが、それがお互いの闘争心をかき立て、ファンもその姿に酔い知れる。

現在の「ハカ」は改訂バージョン。かつては「カマテ、カマテ」という掛け声に合わせて別の「ハカ」を披露していたが、テレビCMで選手が踊るなど、「あまりにもコマーシャライズされてしまった」(クロフォード氏)経緯がある。

黒ジャージーを着た選手の胸には今、保険会社の「AIG」のロゴが入っている。「(AIG)のグローバルなプレゼンスが魅力だった」(キャス氏)。今後はアジア、北米のファン掘り起こしに一段と傾注する考えだ。

かつてはアマチュアリズムに固執し続けたラグビーの世界でも、商業化の動きが急速に進む。最強の黒装束軍団のブランド戦略は、その象徴といえるかもしれない。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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