モバイル大赤字・楽天が「東大就職人気1位」のなぜ 「GAFAを蹴って入社」の学生すらいる納得の理由

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楽天に若者が集まるもう1つの理由は「辞めやすい」ことだ。今や新卒で入った会社に定年までいようと考える若者は少ない。キャリアアップを考えるなら、若いときから世界を相手に先端の仕事をしてスキルを身に付ける必要がある。早くから責任のある仕事を任され、AIなどの先端テクノロジーを使った仕事ができる楽天は「辞めるにはもってこい」の会社である。

転職市場で引く手あまたな「青いR」と「赤いR」

東大生の就職先ランキングでリクルートが学部卒12位、院修了14位と上位につけているのも同じ理由からだろう。リクルートの創業者、江副浩正は創業の頃から採用担当に「高学歴で商売屋の長男を採れ」と命じていた。その理由を、江副はこう明かしている。

「サラリーマンの家の息子より算盤が弾けるから即戦力として使える。おまけに30代、40代を過ぎて賃金が高くなるころには、実家を継ぐために自分から辞めてくれるじゃないか」

入社直後から責任ある仕事を任せて急カーブで成長させ、20代、30代の間はバリバリ働かせ、退職金のピークを40歳前後に置くことで「卒業」を促す。卒業して起業した「元リク」は、リクルートから仕事を請け負う。他社からも仕事をとってくるので、リクルートでやっていたのと同じクオリティの仕事をより安く頼むことができる。アウトソーシングの走りである。

楽天も腕に自信のある社員は30代、40代で起業するケースが増えており、ネット業界界隈では「元楽」が幅を利かせている。「あなたは青いR(リクルート)、それとも赤いR(楽天)?」。転職市場ではこんな会話が日常的になってきた。

経済産業省が5月に発表した「2022年度大学発ベンチャー実態等調査」によると大学発ベンチャー数が、年間過去最多477社増の3782社(2022年10月時点)にのぼった。最多は東京大学の371社で実に全体の1割を占める。

古い大企業に夢を持てなくなった若者は起業を目指す。しかし、卒業していきなりでは仕事の作法もわからない。「いずれは起業」と考える野心家が新卒で選ぶのは、「若いうちにスキルが身に付く(辞めやすい)」楽天やリクルートである。

定年まで在職するつもりなら財務危機は大問題だが、長居するつもりのない彼らにとって、それは大した問題ではない。大事なのは「今すぐにできる面白そうな仕事」。だから若き才能は楽天やリクルートに集まるのである。

大西 康之 ジャーナリスト

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おおにし やすゆき / Yasuyuki Onishi

1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)、『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』などがある。

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