「陸上総隊司令部」を新設するだけでは問題だ 肥大化する自衛隊の上部組織

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だが、スクラップ&ビルドの原則が適用されないため、優先度の低い従来組織をそのまま残置されている。空挺団は正味は徒歩3個中隊基幹の1個増強大隊であり、1佐指揮官でも配員の無駄である。だが旅団規模相当の陸将補と団本部がついたままだ。

小規模部隊でも変わらない。与那国島に配置する沿岸監視隊もスクラップ&ビルドをしていない。冷戦時代、ソ連軍の情報収集のため稚内と根室に二つの沿岸監視隊を作ったが、冷戦集結以降も残置されていた。そして今回中国シフトとして先島の与那国島に部隊が新編されるが、従来の監視隊のいずれも廃止されない。

このため、陸自は頭でっかちの組織となっている。指揮官・幕僚ポストが肥大し、正面や兵站(へいたん)戦力といった手足部分がやせ細る状況となっているのだ。

自衛隊員のうち300人に1人が専従の音楽隊員

組織肥大化を如実に示すのが音楽隊である。旅団級組織に付属することになっているため、14万の陸自が21個もの音楽隊を保有している。各隊を平均20人でみても、陸自300名につき1人は専従の音楽隊員となる。音楽員は真面目であり、陸自でも自隊警備や演習での司令部警備等で活躍しているが、それにしても多すぎるだろう。

また、普通科連隊も無駄が多いようにみえる。陸自連隊は4個中隊編制であり、そのうち1~2個中隊は完全編制ではない。つまり連帯とは名ばかりで、実際には大隊の規模もない。そこに1佐連隊長と連隊本部、幕僚組織がつけられているのは、膨張しすぎた組織といえる。

陸自は昔から「日本の防衛力は弱体である、日本の連隊は諸外国の大隊の人数しかない」と認めている。それならば、大隊組織に改めるべきだろう。そうすれば無駄な配員を省くことができ、人員コストの削減でも、実働要員を増加にも繋げられる。

こうした組織の無駄は、自主的に是正できる性格のものではない。外部からの力、すなわち国民の声を代表する政治家の力が不可欠だ。今、安保体制の更新を図っている重要な時期だからこそ、併せて、「自衛隊組織を効率化する」という視点からの議論を盛り上げていく必要があるのではないだろうか。

文谷 数重 軍事ライター

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もんたに すうちょう / Sucho Montani

1973年埼玉県生まれ。1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。ライターとして『軍事研究』、『丸』等に軍事、技術、歴史といった分野で活動

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