住友商事式“年功序列”制度、競争の促進と、きめ細かな指導育成で工夫凝らす

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 たとえば、本社ではチーム長、つまり、「G4」であった社員が海外に赴任し数十人の部下を率いる場合がある。このときは「期待役割」が本社でいえば課長に相当するようなものになるので、「G3」となる。
 
 しかし、国内に戻り、チーム長としての「期待役割」を担うことになると、「G4」になる。これらのグレードが変わる場合は、給与もそれに応じて変わる。

渡部氏は「グレードが変わることを昇格や降格とは言わない。あくまで期待役割に応じてグレードが変わるということだ」と強調する。

ここも、この制度の特徴といえる。通常、職能資格制度の下では、部長になった管理職が課長に降格になることはあまりない。言い換えれば、社員間の競争は同じ等級の中でしか行われていなかった。たとえば、部長は他の部長とその上の本部長や役員のポストをめぐり、競い合うものであり、課長と競うことはほとんどない。

だが、同社の場合は「期待役割」でグレードが変わる制度である。つまり、すべての管理職が年功や年齢などにとらわれることなく、同じ環境の中で競い合う。中途採用(同社は「キャリア採用」と呼ぶ)者にとっても、年功が考慮されないことは「公平な競争」といえる。

このように競争に参加する社員を増やすことで、組織の生産性を上げ、業績を拡大させることが期待できる。ここまでを念頭に置いて、人事部は制度設計をしてきたのだろう。

このシステムは欧米企業で見掛ける「職務給」に見えなくもないが、「G1」から「G5」までに分けられたグレードだけで、管理職らの給与など処遇が決まるわけではない。その時点でのグレードはもちろんだが、その年度における業績なども査定することで処遇が変わっていくのである。

同社の人事制度は、「誰もが一斉に昇格する年功序列型制度」とはおよそ程遠いものといえる。厳しい制度でなければ、グローバル化の最前線で国際競争力を兼ね備えた企業としのぎを削ることなどできるわけがないのだ。

よしだ・のりふみ
人事・労務分野を中心に取材・執筆を続ける。著書に『あの日、「負け組社員」になった…』(ダイヤモンド社)、『いますぐ、「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。

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