「生成AI」は国際政治におけるパワーとなるのか 偽情報による情報戦にとどまらない応用可能性

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今後は偽情報の作成者が人間から生成AIに代わることが想定され、AIは24時間休むことなく、偽情報を生成し続ける。生成AIを利用すれば偽アカウントが実在の人間のように日々の生活の画像、日常的なコメントを投稿することも可能となる。このようなアカウントは実在か非実在の判別が難しくなるだろう。

また、以前から本物と見分けがつかない画像や動画を生成するディープフェイクによる偽情報の拡散が懸念されていた。2023年5月にアメリカ国防総省付近で爆発が起きたという偽画像がSNSを中心に拡散し、株式市場が一時下落した。

国家や非国家アクターが生成する偽情報が選挙や株式市場に干渉できるのであれば、そのツールとなる生成AIはパワーといえるだろうか。技術そのものは中立であっても、国家が生成AIを使って他国の世論を操作し、自国に有利な環境をつくり出すのであればシャープパワーに包含されるかもしれない。

民主主義国家の選挙制度には脅威となろう。ロシアとウクライナの戦争では両者から様々な情報が発信されたが、その真偽を判別することは困難である。インターネット空間では、検索の上位表示や、SNSでの表示頻度という物量が影響力となる。この物量を生成AIであれば容易につくり出して流布することが可能である。

4. 生成AI技術のロボット工学や意思決定支援への応用可能性

生成AIは情報戦だけでなく、ロボット工学、意思決定支援、教育訓練への応用が想定される。動画生成技術はロボットの行動計画に応用可能であり、文章入力によって動画生成ができるのであれば、その動画をロボットの動作、すなわち行動計画に利用することができる。

軍事領域での生成AIの利用例

例えばGoogleはPaLM-SayCanという技術を開発し、人間が曖昧な自然言語で指示を出すことでロボットを動作させることができる。またGoogleはUniPiという技術でPaLM-SayCanで使用した大規模言語モデルの代わりに大規模な動画データを学習した動画生成モデルを使ってロボットの行動計画を構築している。またLLMは膨大なデータを構造化できるため、人間の意思決定支援に利用することが可能であり、その対話能力は人間の教育訓練に適している。

国家のパワーに直結する軍事領域では、生成AIがドローン等の制御、作戦立案支援、教育訓練などに利用できることだろう。作戦立案においてはデータの網羅性によって人間には発想できなかった質的な変化が起こるかもしれない。このように生成AIは偽情報の生成のような認知領域のみならず、広くその実装が可能である。これは科学技術のパワーへの変換の例といえよう。

2023年8月、アメリカ国防総省は、インテリジェンス、作戦計画、管理・業務プロセスを大幅に改善する生成AIの可能性を検討するため生成AIタスクフォースの設立を発表した。

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