(第59回)お茶の話(その1)

山崎光夫

 私は地方の親しい友人たちにここ数年、お茶を送っている。友人からは地方の名産品が届くので、私のほうも、何か土地の特産品はないものかと探した。地方には農産物、果物、海産物など、土地独特の特産品があるが、東京には頃合いの物がなく、何か特徴を出そうとすると困るのである。

 探した結果、狭山茶にたどり着いた。私の住む地域から埼玉県の所沢、狭山にかけては狭山茶の産地なのである。
 立春から数えて88日目が茶摘みを始める目安。5月のゴールデンウイークがこの時期に当たる。
 この新茶を友人に送って喜ばれている。以前はまんじゅうやせんべいで、それこそお茶を濁していたが、今や地方人並みに味と香りの品を送れるので助かっている。

 歴史をたどると、日本では茶が伝来して、禅宗で広く普及した経緯がある。眠くなる座禅で、眠け覚ましとして重宝されたというから、お茶は意外な目的で出発している。
 カフェインの効果である。

 日本茶の渋み成分はカテキンで、抗酸化作用のあるポリフェノールの一種である。また、日本茶にはコレステロールを抑える作用やがん予防効果も知られている。
 酒が百薬の長ならば、茶は健康の長といえそうだ。
 中でもよいお茶は、抹茶。抹茶は茶葉を臼でひいて粉にしたもの。茶そのものを飲むので茶の有効成分を余すことなく摂取できる。
 日本人の工夫である。

 その抹茶の利用を極めたのが茶の湯。
 お茶を好んだ日本人はこれを単なる嗜好品とせず、茶道という芸術にまで高めた。わび、さびも日本人特有の世界である。

 「茶」の字を分解すると、まず、草かんむりの「二十」、次に、「八十」、そして、「八」となる。
 「20」「80」「8」の数字を足すと、「108」になる。これが茶寿。
 77歳の喜寿、80歳の傘寿、88歳の米寿、90歳の卒寿、99歳の白寿、その上に 108歳の茶寿となる。
 だが、108は人間の煩悩の数と同じ。もっとも茶寿まで生きれば、煩悩などおそらくないのだろう。
 健康の長のお茶を飲めば、108歳の茶寿も夢ではない。お茶は長命のもと、縁起のよい飲み物といえる。

 縁起がよいといえば、茶柱が立つとよいことがあるといわれる。だが、縁起を生かすには条件があって、茶柱が立ったことを人に話してはならない。
 「あっ、茶柱が立った」
 と大声を出して喜ぶのはもってのほか。
 茶柱を見たら、誰にも悟られずに密かに願いごとを唱えるのが“基本"。縁起を引き入れるには決して茶化してはならない。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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