世界的権威が警告する「中国の影響力工作」の脅威 尖閣や歴史問題で誘発されている「社会的不和」

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影響力工作自体は、古代からデマの流布や口コミという形で「戦い」において使われてきましたが、20世紀初頭に登場したラジオやその後のテレビの普及により高度化・体系化されたものが使われ、インターネットの普及により、そのバトルフィールドをSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に広げました。

私は、SNSを中心としたサイバー空間での影響力工作の研究をしており、このテーマで、欧州の安全保障での会議、国内の警察、防衛省・自衛隊や防衛装備庁などで講演を多数しております。私の研究については紙幅の都合で割愛しますが、サイバー空間での影響力工作は、民主主義国家の新しいタイプの脅威とみなされています。

シャープパワーに基づく影響力工作の増大

このたび、翻訳出版された『中国の情報侵略』では、中国共産党による、主に、新聞、テレビ、ラジオといった従来メディアを通した影響力工作の実態が赤裸々に示されています。本書に示された指摘はどれも興味深く、メディア以外での影響力工作の話もたくさんありましたが、取り上げ始めるとキリがないので、ポイントを絞って紹介します。

影響力工作とは、前述の通り、「競争相手国の意思決定」に影響を与えることがポイントです。一般に、民主主義国家における意思決定の根幹は民意であり、民意に多大なる影響を与えるのが新聞、テレビやラジオといったメディアです。よって、専制国家が、敵対する民主主義国家のメディアを牛耳ることができれば、その国を操ることができるということになります。

同書によれば、「ほとんどの国の中国語メディアをコントロールすることにほぼ成功している」と断言されているように、中国共産党は、すでに、世界各国に散らばる中国語を使う人たちへメディアを通して影響を与えることができる状況にあるそうです。

具体的には、中国共産党御用達のメディア新華社通信を通して、「中国共産党を褒めちぎる」記事を配信し、イメージアップを狙います。さらに、新華社通信は、さまざまな国の地元メディアとのコンテンツシェアリング契約を結び、対象地域にて「提灯記事」を飽和させることを狙います。

他国メディアとのコンテンツシェアリングの場合は、中国語だけでなく、地元メディアでは現地の言葉でも配信されます。ちなみに、反日プロパガンダ記事もこの仕組みで配信されます。また、経験豊かな外国人ジャーナリストを自国内での研修に「ご招待」したり、さらには、優秀な外国人ジャーナリストを雇用したりして、布陣を固めているわけです。

そして、西側諸国のメディアには太刀打ちできない点として、中国共産党の御用達メディアは、「利益を上げる必要がない」ということです。このようなイメージアップキャンペーンは、ソフトパワーに基づく影響力工作とされ、影響力工作でも比較的温和な手法と言えるでしょう。しかしながら、影響力工作の脅威はこれらにとどまりません。

それは、「中国に批判的なメディアは中国によって厳しく懲らしめられる」のです。たとえば、あるオーストラリア系中国語新聞が中国での臓器摘出についての記事を掲載した際、この新聞社は、広告宣伝契約をすべてキャンセルされてしまったそうです。こちらは、シャープパワーに基づく影響力工作と呼ばれます。

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