「理想的な家族」を盲信するのは間違っている 下重暁子「家族という病」を読んで感じたこと

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それではそれらの言葉を、1冊にまとめたタイミングがよかったのでしょうか。親が子を子が親をあやめたり、夫婦間の殺人事件などはあとを絶たず、その方法も残忍化の傾向があります。父上と兄上の確執もすさまじく、傍らに凶器があれば事件になっていたほどのものです。だから昨今の凶悪な家庭内事件も、自分の家族は絶対大丈夫だと信じるのは大きな思い上がりだと、氏は警告を発しています。

それに私はこのコラムを書かせていただいている関係で、昨今、特に家族に関する記事には目が留まりますが、深刻な確執を抱えている家族のほうが、平和な家族より多いのではないかと思うほどです。

そこに、あの幸せいっぱいの雰囲気を持つ下重氏の「家族を避けてきた」本が出たのです。氏ほど知的で多くのことに恵まれた人でも、しんどいのが「家族」なのかと、多くの家族問題について関心のある人たちの共感を呼んだのでしょうか。

自分への優しさがつらかった

下重氏の場合、あこがれて尊敬していた職業軍人だったお父上は、2・26事件を決起した青年将校と同期生でした。諸事情があったにせよ、父上が青年将校たちと行動を共にしなかったことや、公職追放後になくした毅然とした態度などに強く反発されたのです。父上の「落ちた偶像」を見るのがしのびなく、顔を合わせるのを避けるようになったそうです。

下重氏は、そんな父上に従っている母上の生き方も間違っていると感じ、理解できません。ご自分への絶大な有形無形の母上の愛情や、元々画家志望だったという細やかな神経の持ち主の父上の、ご自分への優しさもつらかったと書いておられます。

他人からみればささいな感情のもつれも、積み重なると糸口が見えないほど深刻になるのが家族の確執です。それをすべて言葉にするのは無理というもので、ここに書かれたことだけで、私がすべてを知ったように書くのは失礼なことです。

それを承知のうえで、氏にとっての「しんどい家族」の原因が、それほど深刻な内容のようには思えなかったのです。

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