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明確な目的と効果への意識が付加価値の高いICT環境を創る

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ICT活用の差が、大学教育や研究成果、さらには大学運営にまで影響を及ぼす現代。少子化等で大学間の競争が激化するなか、いかに選ばれる大学となりうるかは、極めて重要な課題である。目まぐるしく変化する時代に、大学が求められているICT戦略とは何か。慶應義塾大学教授で一般社団法人大学ICT推進協議会理事の赤木完爾氏に聞いた。

教育・研究のクオリティに影響するICT環境

慶應義塾大学法学部教授 慶應義塾図書館長 慶應義塾インフォメーションテクノロジーセンター前所長 一般社団法人 大学ICT推進協議会理事
赤木 完爾氏(あかぎ・かんじ)
1980年慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程修了、89年法学博士。92年同大学法学部助教授、97年同大学法学部教授。11年一般社団法人大学ICT推進協議会理事、13年公益社団法人私立大学情報教育協会理事等。

大学において、ICTは電気や水道などと同じく日常的に不可欠なインフラとなっており、その活用なくして教育・研究も大学運営も成り立たなくなってきている。

「たとえば、過去の文献など膨大な情報を活用したいときに、ICTは非常に大きな力を発揮します。それだけに、大学の教育・研究においては、ICTをどういう目的で何に活用し、どれだけの効果があるかということを、常に意識しておく必要があります。」と赤木教授は指摘する。

たとえばある大学では、新学部設立の際にLMS( LearningManagement System)を構築して学習に活用するとともに、SNSを使って上級生と下級生が話題を共有したり、留学を経験した学生からの現地情報を共有するなど、学部全体で活用しているという。「これなどは最初から目的を明確にして設計したICTを活用している例で、教育効果も期待できるでしょう」

ICT基盤をどう整えるかは大学の規模によっても異なるが、自分の大学はどういう教育を目指し、学生がICT環境をフルに活用できるようにするためにどうすればいいかを考えるのがまず重要である。しかも、非常に速いスピードで変化し続けるICTにおいて、数年後を予見することは大変難しく、ある時点におけるベストな選択をするためには、最新の技術動向を注視しながら、常に目的意識を持っている必要がある。

「別の大学では、科学技術系の学術誌の何千タイトル、何万タイトルのデータが活用できる契約をやめてしまったケースがあります。そこにかけていたコストを若い研究者の育成に使うということでした。しかし、3年、4年経ってきたときにどういう影響がでるのか、非常に大きな賭けかもしれません」。つまり、目的と効果を考えると、教育・研究のパフォーマンスに影響するICT環境が突然使えなくなることによって、学生や教員に自分の研究テーマの分母を狭めなければならない状況が生じる可能性があるのだ。

自分の大学にマッチしているかの見極めが重要

ICT環境を整備する上では、クラウドの活用も重要な位置を占めている。大学において重要な情報は自前のサーバーで管理したいという要望はあるだろうが、利用できる部分に信頼のおけるクラウドベンダーを使うことはメリットが多い。ICTの世界では、ある時点まで非常に予算がかかっていたものが、一つのブレークスルーによって、ほとんどコストがかからなくなるということが起こりうる。クラウドを活用することで、そうしたシステムやソフトへの大きな投資で後悔するリスクを軽減することができるのだ。

「ここで注意しなければならないのは、手段が目的化する恐れがあることです。勧められるままにシステムを導入した後で、どうぞ使ってくださいといわれても学生や教職員は十分に活用できません。このシステムで何をやるのかと聞かれて、誰も答えられないということが往々にしてありうる話なのです」

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