「年収800万円」の俳優がスト参加する深刻事情 ハリウッドでストをしている彼女の言い分

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ムラシュコさんの俳優歴は5年。アルバイトは一切せず、バックグラウンド俳優の仕事だけで、昨年は6万2000ドルを稼いだ。税金や労働組合費、あっせん事務所への支払いなどを差し引くと、日本円にして手取りは約800万円だ。

「8時間当たりの撮影につき約180ドルの報酬が俳優労働組合員の最低賃金として保証されるけど、仕事そのものは毎回自分でゲットする必要がある」とムラシュコさんは言う。

12時間の撮影が終わったら、次の現場が始まるのが1時間後という綱渡りのスケジュールもあるそうだ。「睡眠不足でも、身体がキツくても、来る仕事は全部受けておかないと、収入が不安だから」と彼女は言う。

AIに「代替される」のが恐い

そんな彼女が今最もおそれているのは、映画会社やテレビ局や映像配信企業が、彼女の顔や身体をスキャンし、AI技術を駆使して、その映像を加工し、永久使用する権利を得てしまうことだ。

「1回の撮影で、全身をスキャンされてしまえば、スタジオ側が私の映像をあらゆる方法で加工することが技術的には可能。そうしたら次からはもう撮影に呼ばれなくなるかもしれない。AIによって置き換えられてしまうのが怖い」とムラシュコさん。

実は撮影現場で身体や顔をスキャンされるという体験は、2019年頃からすでに何度も頻繁にあった、と彼女は言う。

「ワーナー・ブラザースの『スペースジャム2』の撮影で、私たち120人ぐらいがスタジオに呼ばれ、違う衣装を着て、身体をスキャンされた。スキャン作業を拒めば仕事自体が与えられないから、誰も断ることはできなかった」

スキャン済みの映像の所有権や使用権に関する契約は特に提示されず、書類にサインすることもなく撮影は終わった。「あの時点で、スタジオ側がスキャン映像を将来どう使うのか、私たちにはまったくわからなかったし、誰もルールを把握していなかった」。AIという言葉が、映画業界ではまだ頻繁に使われていなかった4年前のことだ。

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