アップルが「高齢者にiPad」を推進するワケ 日本郵政との提携に隠された狙い

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アップルは最近になって、活用事例をまとめたページ「Everything Changes with iPad」を米国のウェブサイトで公開した。現在は料理、教育、スモールビジネス、旅行、部屋の模様替えの5つの目的を用意している。ページではシチュエーションごとにアプリ紹介し、iPadを活用するアイディアを提供しようという考えだ。

例えば料理のカテゴリでは、レシピアプリの紹介と活用に加えて、キレイに盛りつけられる見本を大きな画面で見るといった、iPadらしいメリットも見せている。またキッチンでiPadを立てておけるスマートカバーを紹介したり、Siriのハンズフリー機能を使って手を触れずにタイマーをセットするなど、アプリとiPadそのもので作り出す魅力を伝えている。

これまで特に力を入れてプロモーションしてきたのは教育だったが、それだけでは、売り上げとともに、iPadの深い活用と需要喚起を高めるには不十分だった、という判断もあるのではないだろうか。

アップルのiPad活用の事例作りはまだまだ続く。新しいフォーメーションでiPadを売り込むのが日本市場だ。

4月30日、アップルはビジネスパートナーであるIBMとともに、日本郵政グループとの提携し、iPadを活用した高齢者向けのサービスの実証実験とサービス展開を発表した。

アップルのiPadに備わる使いやすいFaceTimeやメッセージ機能、障がい者にも対応できるアクセシビリティ機能を生かして様々なアプリを提供しながら、IBMが高齢者向けのアプリと、これらのデータを統合・管理・分析するプラットホームを開発するという枠組みだ。

こちらが画面のイメージ

これらのサービスを、日本全国2万4000の郵便局と40万人のグループ社員を擁する日本郵政グループが、高齢者向けの医療や家族間コミュニケーション、コミュニティ作り、買い物や就業の支援を行っていく。2020年までに400万〜500万人のユーザーを獲得したい考えだ。

アップルはすでにiPhoneを活用した医療分野への進出を果たしており、高齢者向けの活用も広がるだろう。またIBMの東京にある研究所ではより自然に言葉でコンピュータを利用できる自然言語解析技術の応用が期待できる。

日本で成功させて世界へ展開?

この取り組みは、世界でも高齢化の進行が早い日本で行われることに意味がある。一方で、ネットワーク、医療機関、自治体などのビジネスとの連携や新たな構築が課題になりそうで、日本での成功を他の国々へ展開できるかどうかは、不透明だ。意欲的な取り組みではあるが、乗り越えなければいけないハードルは多い。

それでも、iPadが使われるシーンを戦略的に増やしていく有効な策となるだろう。成熟市場へ向けた成長を続ける中国と、成熟社会での活用を模索する場としての日本。アップルにとって、中国と日本は異なる意味で、重要なアジアの市場といえるだろう。
 

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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