エネルギー政策をめぐりドイツで続く激しい攻防 現地ジャーナリストレポート

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 国民の間で原子力の手に負えないリスクのとらえ方が大きく変化したため、すべての政党は現在、国家のエネルギー政策を見直す姿勢をとるようになっている。財界の利益を擁護する立場をとる自由民主党も例外ではない。

今のところ、ドイツ政府では複数の取り組みが進行している。

(1)ノルベルト・レットゲン環境大臣(与党内にあって原子炉の使用延長に反対する政治家の一人)が、原子炉安全委員会(RSK)に対し、17の原子力発電所を改めて点検するよう指示した。このいわゆる「ストレステスト」の結果は、5月半ばまでに提出されることになっている。

(2)RSKと並行して、科学界・財界を代表する17名で構成される電力供給確保の倫理的側面に関する委員会(Ethikkommision)の活動もある。ここでは科学界・財界に加えて、政治経験者、教会のリーダー、労働組合員が議論に参加する。

批判的な人々は、これらの動きについて、与党連立政権がエネルギー政策の唐突な転換を国民に納得させるための広報活動プロジェクトに過ぎない、と見ている。グリーンピースのトビアス・リードル代表は、これらの動きは現政権の「破綻宣言」だと言い、「飛行機事故の影響を見極めるには10分もかからない。このような事態についてはすでに何度も調査済みだ」と切り捨て、モラトリアムではなく即時の法的措置を求めている。リードル氏は、「政府は時間を稼ごうとしているにすぎず、原子炉を2~3基運転停止させるだけで、原子力からの脱却を促進することなく一種の駆け引きで終わらせようともくろんでいるにすぎないのではないか」と懐疑的に見ている。

■首相の方向転換に電力会社は反発

メルケル首相は4月4日に委員会の初会合に参加し、議論の主要テーマを説明した。それは原子力発電所の安全性、原子力の使用を中止またはその継続期間をできるかぎり短縮化することによって「適切な政治的判断を尊重」しつつ、我が国のエネルギー政策の根本的見直しを実現することができるか、などだ。

首相の突然の政治的な方向転換を、連立与党を構成する3党の議員がすんなりと受け入れているわけではない。連立政権を構成しているのは、首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)に加えて、自由民主党(FDP)とキリスト教社会同盟(CSU)で、後者はバイエルン州のみで活動する地域的な保守政党だ。議会におけるこの3つの党派は、意思決定についての影響力拡大を目指して、3名のリーダーからなる共同議長の下でそれぞれの作業グループを形成している。

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