マスターズ観戦の宿泊先は、民家!?

漫画家/弘兼憲史

 ゴルフ本来の話ではないけど、面白い体験をしたことがあります。雑誌の企画で“マスターズ”を取材に行った時の話です。世界4大トーナメントは、それぞれに魅力のある大会ですが、その中でもマスター(名手)が集う祭典には、一度は行きたいと思っていました。

1993年の春のことです。開催地のジョージア州オーガスタには、当時ホテルが数軒とチープなモーテルしかありませんでした。ホテルは選手やその家族、大会関係者の宿となり、モーテルはスポーツメーカーの社長やメディアの人が借り切ってしまうので、大会期間中、一般人は地元の民家を借りるんです。地元の人がサイドビジネスで民宿をしているわけではなく、生活しているままの家をまるまる1軒貸してしまうんです。もちろんそこには旅行業者(ダフ屋)が入り、1軒に大体3~4組のグループが入ります。
 マスターズという大会はほかのトーナメントとは違い、入場券は売っていません。登録したメンバーに送られてくるチケットだけが有効なので、それを買い取った、いわゆる(ダフ屋)から買い取らなければなりません。当然値段は破格でプラチナチケットといわれます。われわれが買い取った値段は、4日間通しのチケットで5000ドル、2人で1万ドル(約100万円)でした。その中に4日間の宿泊費も入っているわけです。

僕と編集者が宿泊したのは5LDKくらいの一軒家で、その1部屋を借りたんですね。当然、ほかの部屋には見ず知らずの外国人が泊まっています。キッチン、バス、トイレは共同で、食料は自分で買ってきて自炊。生活用品は自由に使えます。そして家主はといえば、レンタル料をあてにして家族でバカンスに行ってしまうんです。僕たちに割り当てられたのは、この家の姉妹の部屋でした。最初はちょっと居心地悪かったですね、かわいい部屋にむさい男が二人で居るんですから。
 他人に家を明け渡すという心理は、日本人のメンタリティには程遠いかもしれません。いくらでも私生活が見えてしまうというのに、あの無防備さは国民性なんでしょうか。そして、連れの編集者が何げなく引き出しを開けてしまったんです。引き出しの中身は下着。かわいいブラが顔をのぞかせてました。下着までそのまま置いていくのには、ちょっと驚きましたね。そんな空間にいると、今度は好奇心が出てくる。「この部屋の住人は、どんな顔しているんだろう?」って。で、ついつい机の上のアルバムを見てしまったんです。これが、メチャかわいい。そしてベッドサイドのメモに“ハブ ア ナイス ドリーム”と書いてあったんですね。彼女たちのほのかなにおいが残る布団で、僕と編集者はぐっすり眠りました。

この年、優勝したのはドイツのベルンハルト・ランガー。日本から出場した尾崎将司・直道兄弟は、共に45位タイでした。

漫画家/弘兼憲史(ひろかね・けんし)
山口県出身。早稲田大学法学部卒。松下電器産業(現パナソニック)勤務を経たのち、1974年に漫画家としてデビュー。現在、『島耕作』シリーズ(講談社)、『黄昏流星群』(小学館)を連載するほか、ラジオのパーソナリティとしても活躍中。
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