インフルエンサーが「あえて炎上」する納得の理由 無料情報の背景にアルゴリズムや経済的合理性

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こうした「フォロー」に頼らないアルゴリズムが成功すると、X(Twitter)などフォローの概念を重視していたプラットフォームでも、ユーザーがフォローしていないアカウントから発信されるコンテンツを重点的に推奨するフィードとアルゴリズムを開発、実装するようになった。

結果として、今のSNSプラットフォームでは、従来のフォロー・フォロワー関係を大きく超えた爆発的な拡散がより起きやすいしくみになっているのだ。

新たなアルゴリズムで炎上の「閾値」が下がった

この変化は、情報の発信者にとっては功罪がある。

「功」の部分は、フォローを前提としたしくみよりも圧倒的に拡散しやすくなり、多くの人に情報を届けやすくなったことだ。X(Twitter)のようなプラットフォームでは、フォロワー数が多いことがその人の発信力を示す指標として機能していた。

だが、TikTokではX(Twitter)ほどフォロワー数に価値がない。コンテンツの内容が良ければ、フォロワー数がわずかなユーザーでもある日突然爆発的に拡散するからだ。

少し前までは、有力なインフルエンサーが「フォロワー数がSNS時代の資産になる」「お金や肩書よりもフォロワー数が重要な時代が来る」といった意見を述べているのをよく聞いたが、フォロワー数はお金で偽装することのできる値でもある。もちろん、少ないよりは多いほうが良いが、アルゴリズムが進化し、多くの人に情報を届けるハードルがどんどん下がっている時代に、フォロワー数がどれほど権威性を残すかは分からない。

一方で、このアルゴリズムの進化が「罪」の部分をクローズアップしてしまう。フォロー・フォロワー関係の概念が良かったのは、「発信者」とそのコンテンツを「消費する人」(=フォロワー)が共有する文脈があったことだ。その発信者が背景に持つ意見やスタンスを理解したうえで、コンテンツを支持するフォロワーがいわば「コミュニティ」を形成していたとも言える。

だが、前述のように、このフォロー・フォロワー関係を大きく超えるような拡散が生じると、コミュニティで発信者とフォロワーが共有していた文脈を知らない、あるいは理解しない人にも広くコンテンツが届くことになる。これが意図せず激しい批判や中傷を巻き起こすことがあるのだ。

X(Twitter)でも、主なフィードが「おすすめ」と題して、そのユーザーがフォローしていないアカウントの投稿も積極的に表示するアルゴリズムに変更されてから、炎上の「閾値」が下がったように感じられる。以前なら、炎上するのはいわゆる「バイトテロ」や「バカッター」と呼ばれる明確に社会的倫理に反する行動であったり、政治家や著名人の失言であったりしたところ、最近は「価値観の違い」としか言いようのない程度の話で簡単に炎上が起きてしまう。

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