JR只見線、トキ鉄「雪月花」特別運行の全舞台裏 「磨けば光るローカル線の横綱」を光らせるには

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こうした動きの中で鳥塚氏は「只見線はローカル線の横綱。磨けば人が集まる」と、地域で行動する人々との公私にわたる付き合いを深めていった。ローカル線問題で各地に招かれる氏は、住民自体にまったく熱がない地も見ており、老若男女を交えて活動に熱心で、沿線市町ばかりか県を跨ぐ連携まで築いている当地は可能性があると言う。すでにトキ鉄に転籍していたので、只見線は新潟県の事業者としても関心事である。

JRとしては、ワーストレベルの不採算路線に巨額は投じられないとの経営判断になる。だが、福島・新潟両県や他の災害路線を抱えた地の国会議員も動いたことで議員立法により2018年の鉄道事業法改正に至り、黒字事業者でも一定要件を満たせば赤字路線の災害復旧に国の補助を入れることが可能となる。これらが総合された結果、只見線会津川口―只見間は上下分離方式での鉄道復旧が2017年6月に決定され、復旧費約81億円のうち3分の2の約54億円を国および福島県と会津17市町村で負担、再開後の線路維持管理は福島県の責で行うこととなった。この後、コロナ禍でインバウンドは壊滅するが、沿線の誰もが「奇跡の復活」と口にする今、再び多くの訪問者を見るほどになっている。

只見駅に繰り出した地元の人々 当日はスペシャルな 列車の運行を防災無線で伝えた自治体もあったと聞いた(写真:山井美希)

車両が足りないならば「雪月花を貸す!」

だが一方、運行再開に際しての福島県とJR東日本の取り決めは「被災前の状況に戻す」であった。すなわち、豪雨禍直前の1日3往復(被災区間)運行を再開することが目標であった。結果、「11年ぶりの復活」という前評判から、運行を再開した途端に超満員で5時間近く立ちっ放し、積み残しも出す大混乱を引き起こした。JR側にも事情はあり、只見線で通常運行する車両はキハE120形6両。現場判断でそれ以上の手配を付けるのは難しい状況だった。

しかし、東京の電車のような混雑で逆にイメージを下げかねない問題とされ、東北運輸局も出席する只見線利活用計画検討会議の中でJRや福島県は地元から詰め寄られる。JRは、紅葉時期と重なる全線再開に際し、定期3往復に加えて指定席連結の「只見線満喫号」か、オープンエアの観光車両「風っこ」を使うかのいずれかで臨時1往復を土休日に計画していた。所定1〜2両の定期列車は3両に増結した。だがそれでは足りず、会津川口折り返しの1往復を只見へ延長、小出〜只見間は別途の臨時列車を接続させた。只見延長列車は11月3日から土休日運転を始めたが、公式発表が前日の2日だったなど、車両や乗務員の算段に最後まで手間取った“てんやわんや”が感じられる。

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