元IT企業社員が「魚屋」になって学んだ働き方 「人生最大の危機」から生まれた魚屋の森朝奈さん

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新しいWebツールやシステムを導入して、電話やFAX中心だったアナログなコミュニケーションをデジタルに変え、仕入れや加工、配送、本部などの役割の違うメンバー全員が同じ情報を見て決断できる状態を整えたのです。

すると従業員の勤務時間が減り、飲食店の店舗数を拡大する余裕が生まれ、売り上げアップにも貢献することができました。

このように私は、先代と同じことをするのではなく「穴を埋める」働き方を意識してきたからこそ、お互いの強みを生かして会社全体を活性化できたのだと感じています。

これはきっと、家業に限らず、会社組織でも一緒ですよね。

例えば、先輩や上司など、自分よりも優れたスキルを持っている人とまったく同じフィールドで戦おうとすると「できない自分」に自信を失うこともあるし、お互いがライバルになってしまうこともあります。

けれど、そうじゃないところで「このチームに足りないものは何か」「このチームをもっとよくするためにほかの人はやっていないけれど自分がやったほうがいいことは何か」を考えて行動すると、途端にそのチームに自分がいる意味を発揮しやすくなる。

これは、自分にとってもチームにとっても、ヘルシーな考え方なのではないかと思います。

コロナ禍を乗り越え見つけた「私にしかできない仕事」

(本人画像提供/森朝奈さん)

ただ、寿商店に入社してからは、なかなか私のことを認めてくれない父にいら立って「もう辞めたい」と退職を持ち出したこともあります(笑)

楽しいことばかりではないし、むしろ大変なことのほうが多かったくらい。とくに、コロナ禍は人生最大のピンチも経験しました。

コロナショックが到来した2020年には飲食店経営がとくに大きな打撃を受け、売り上げは例年の4割にまで減少。

父は元気をなくしてしまい、自宅待機中の社員からも不安の声が漏出しました。中には、「飲食業界には未来が見えない」と寿商店を辞めていくスタッフも出てしまったのです。

そんなとき、わらにもすがる思いで始めたのがYouTubeチャンネル「魚屋の森さん」です。

投稿を始めたタイミングが幸いしたのか再生数は順調に伸び、寿商店を全国のお客さまに知っていただくきっかけになりました。

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