NHK柳澤さん、「後藤さんとの思い出」を語る 後藤健二さんの死がテレビに遺したもの

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──後藤さんとはどのような関係でしたか。ウマが合いました?

なんか波長が合いました。冗談話を含めてね。非常にいい青年というか若者というか。最初に会った時代を考えると今から20年近くも前だったから彼も30歳になるかならないかで、本当に良い若者だなっていう感じでした。

自分たち組織に属す人間と、フリーの人たち、同じような気持ちを本当に持てるかというなかで、後藤君とはやけに波長が合うと感じました。つき合いの長いフリーの方って何人もいますけど、いつもみんな言うのは、きれいごとで自分たちの仕事を語ってほしくないと、俺たちやっぱりあそこのヤバいところへ行って仕事をしてきてそれで稼いでいるんだと。それが俺たちの仕事なんだと。

だからそこを「報道」「ジャーナリズム」っていうことで、潔い、格好良いところで括られると、ちょっと違うかもしれない。みんな異口同音にそういうことを言う。結果的にどうなるか別だけど、何かあった時には「自己責任」という問題も「百も承知だ」と。それが我々がやる「仕事」なんだと、そういうことなのだと思います。

我々の仕事もリスクや危険とは隣り合わせ

僕らの仕事って危険がつきまとうのは当たり前の話であって、消防士が火消しに行けば火事場で火に巻き込まれるかもしれないし、警察官だって、強盗を追いかけていれば、逆に命を落とすかもしれないというのをわかったうえでやっている。

そういう点で、我々の仕事もリスクや危険とは隣り合わせだと考えていくとすれば「ただ単に危険だから行かない」という選択肢は違うというのが僕の持論です。そういう選択をするんだったら看板下ろしちまえ、と昔から言っているんです。自分がジャーナリスト、報道にたずさわっているなんて、おこがましくて言えなくなる。

ただ本当に傷ついたり死んだりしたらもう耐えられないことですから、ある判断というのは当然伴うものだと思います。でもそこがいきなり、「危ないから行かせない」「危ないところはフリーに行ってもらう」「撮ってきてもらった素材で番組を作る」というような短絡的な発想で番組やニュースをつくっていくことはやるべきじゃない。

もしその中でやる手法があるとしたら、それは自社も、フリーも問わず、その現場で一番、語るにふさわしい、伝えるにふさわしい人がその言葉で語ってほしい。それでないと後藤君が言っていた「本当に伝わるべきことが伝わればいいんです」というところが生きてこないような気がするんですよね。

──人質としての後藤さんの映像が流れた時にはどのような印象を持たれました?

正直、あのオレンジ色の服を来て出てきた映像を見た時には……何て言っていいかわからないくらいのショックだったですね。

これまでの外国人ジャーナリストの例もあるので、そう楽観できる状況ではないというのは最初に思いました。でもその後の拘束の映像が出てきて最終的に悲惨な結末を迎えるまでには、ひょっとしたら大丈夫かな? という期待も正直、一瞬、ありました。

──映像での後藤さんの表情から、どんな心境なのかと思いましたか?

よく言われる思い詰めた、というか、彼のあの表情というのは自分の感情を完全に押し殺した顔に見えましたね。自分の感情がこもってしまうと、それはヤツらの思う壺ですから。

むしろ、自分はメッセンジャーとして要求を語るだけ、と淡々としていた。僕はずっと後藤君の声だと思っていたし、彼は、自分の感情を押し殺して、淡々と、とにかく、与えられたメッセージを読み上げている、という……(長い沈黙)。

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