フランス暴動は収まっても政治にくすぶる火種 移民地区を財政支援すれば極右の伸長を招く

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フランス国内では、年金改革を巡る数カ月に及んだデモや衝突が一服し、次の政策課題に取り組もうとしていた矢先の内政混乱により、マクロン2期目の改革推進力が一段と低下する恐れがある。

マクロン大統領の議会会派アンサンブルは、2022年の国民議会(下院)選挙で過半数を失い、法案成立に野党の協力が必要となる。

フランス国民議会の議会構成のグラフ

野党の協力が得られなかった年金改革では、憲法第49条第3項の特例を用いて議会採決なしで法案を成立させ、このことが国民の反発をさらに高めた。秋にはグリーン産業促進法、移民法改正、来年度予算など、重要法案の審議が目白押しだ。議会を迂回する非常手段を多用することは難しい。

与野党の亀裂深まり、政策停滞は必至

これまでのところマクロン大統領は、射殺事件とそれを機に起きた暴動に手堅く対処している。右派の主張に肩入れし過ぎれば、弱者切り捨てや差別容認と受け止められかねず、左派の主張に傾き過ぎると、極右政党の伸長を招く恐れがある。

マクロン大統領は発砲した警官を擁護せず、移民社会への配慮を示すと同時に、若者による暴力行為を厳しく非難している。非常事態を宣言すべきとの極右政党の主張を退け、警官隊や治安維持隊の大規模投入で暴動を比較的早期に沈静化することに成功した。緊急閣議を招集し、事態の収拾に向けて指導力を発揮した。

不安要素もある。

今回の事件と暴動の発生を受け、与野党間の亀裂は一段と深まっている。

極右政党・国民連合のルペン氏は、政府が暴徒や犯罪に甘いと批判し、刑事事件で成人として責任追及される年齢を18歳から16歳に引き下げることや、有罪判決を受けた住民の公営住宅に住む権利や生活保護を受給する権利を剥奪することを訴えている。

極左政党・不服従のフランスを率いるメランション氏は、警察による暴力行為を非難し、低所得者への支援拡大を求めている。

マクロン大統領が法案審議での協力に期待を寄せる伝統的な右派政党の共和党は最近、極右勢力への対抗意識から、ルペン氏率いる国民連合と似通った司法制度改革案を発表した。移民法改正などの議会審議は紛糾が予想され、政策停滞が避けられそうにない。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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