日本人より優雅?定年後中国人の「懐事情」 爆買いする中国人はいかにして生まれたか

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日本でも富裕層の両親を持つ家庭と、そうでない家庭では子どもとの関係性は異なる。「負の連鎖」が社会問題となっているが、中国でも同様だ。余裕のある定年世代の場合、娘家族の費用も出して、みんなで贅沢な旅行をするケースがある一方、年金だけでは自分たちの生活もままならず、子どもに頼るしかないという家庭もある。

だが、どちらであったとしても、現在の中国の定年世代に共通しているのは、若い頃に文化大革命を経験しているということだ。

国家に翻弄された世代がつかんだ「幸せ」

私が取材した中で、今は裕福そうに見える人でも、中学時代に自宅から数千キロも離れた農村に下放され、そこで慣れない農作業を10年間やった、という人が少なくない。その後、運よく大学に入学し、よい仕事に就けた人もいたが、そうではなく不遇の人生を歩んだ人もいる。国家に人生を翻弄された、苦労した世代だ。だからこそ、冒頭の張さんのような「今がいちばん幸せ」といったコメントが、自然と口をついて出るのだろう。

中国国家統計局の統計によると、都市部の年金加入者は2013年の段階で、約2億6000万人。このうち現役の会社員は約1億9000万人。定年退職者は約6300万人で、これが現在の年金受給者だと推測できる。

ひとり当たりの平均受給額は全国平均で月額1400元(約2万8000円)、北京市の平均は2500元(約5万円)と、全国平均よりずっと多い。ちなみに、上記の山東省の場合、平均額は1800元(3万6000円)となっている。張さんや葉さんはやはりかなり恵まれた存在だが、それでも中国の「富裕層」というわけではない。

中国の60歳以上の人口は2014年末の統計で、約2億1000万人と、全人口(13億7000万人)の6分の1近くに上る。現状では、日本とは異なり、年金額が増加していて、年金受給者にとっては「今がいちばんよい時代」といえそうだが、ますます高齢者が急増していくことを考えると不安がよぎる。

中国はあらゆる面で日本の背中を追っているが、中国のボリューム世代といわれている「80后」(80年代生まれ)や「90后」(90年代生まれ)が年金をもらう20数年後、中国はどうなっているだろうか。定年世代の懐事情を取材しているうちに、ついそんなことを考えてしまった。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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