コロナでも連続大幅黒字!「会員制ホテル」の秘密 決算から見るリゾートトラスト「独り勝ち」の訳

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「ホテルレストラン等事業」が赤字でも、稼ぎ頭である「会員権事業」の黒字のおかげで、リゾートトラスト全体の営業利益は黒字になっている(出所:有価証券報告書から筆者作成)

 

事業別営業利益の推移から、リゾートトラストの事業別に見た利益の稼ぎ頭は「会員権事業」であることがわかります。

これは、新規に開業する会員制ホテルの会員権を販売するもので、コロナ禍においてもこうした会員権の販売が好調に推移したことから、安定した利益を稼ぐことに成功しています。

すでにオープンしたホテルやレストランの運営事業は「ホテルレストラン等事業」として表示されています。

コロナ禍の影響を最も大きく受けた21年3月期において、ホテルレストラン等事業の営業損益は61億6500万円の赤字となっていますが、それ以上に会員権事業の黒字が大きかったため、全体としての営業利益は黒字になっていたわけです。

さらに、22年3月期にはホテルレストラン等事業も再び営業黒字に転じています。感染者の多かった都市部に位置しているシティホテルに比べてリゾートトラストのホテルにおける稼働率の回復が早かったことがその要因です。

同社の22年3月期の有価証券報告書では、「『会員制らしい』安心と安全を最優先したホテル運営の認知が広がったこと」が増収増益の理由として挙げられています。

なお、リゾートトラストではリゾートホテル以外に会員制医療サービスの会員権販売や介護付き有料老人ホームの運営などを行う「メディカル事業」を展開しており、この事業も全体の営業利益に貢献しています

求められ続ける「新しく魅力的なホテル」

ここまで、コロナ禍で帝国ホテルとリゾートトラストの業績に明暗がわかれた理由について決算書から解説してきました。

コロナ禍においてホテルの稼働率やレストラン・宴会需要が落ち込んだことで大きな営業赤字を計上した帝国ホテルに対し、新たに開業するリゾートホテル会員権の販売が好調だったリゾートトラストでは、安定した利益を上げることに成功していました。

帝国ホテルでは、24年度から36年度にかけて帝国ホテル東京の建て替えを計画しています。こうした建て替えに必要な資金は最大で2500億円が想定されており、銀行からの借り入れなどにより調達する予定とされています(21年3月26日付日本経済新聞朝刊)。

そのため、帝国ホテルではこれまでの無借金経営から一転して、有利子負債を抱えることになります。建て替え後はホテルで利益を生み出すとともに、不動産賃貸事業やサービスアパートメントなどで安定的な利益を生み出していけるような事業構造を目指していく必要がありそうです

リゾートトラストでは、会員権事業が好調であったため、グループ全体としての営業損益はコロナ禍にあっても黒字を維持することができていました。しかしこのことは、魅力的なリゾートホテルを次々と開業させていかなければ、収益性を高めていくことが難しい事業構造になっていることを意味しています。

そうした観点からすれば、新たなリゾートホテルの開業を進めていくことに加えて、既存のホテルの魅力を高め、そうしたホテルやレストランから生み出される利益の比重を高めていくこともリゾートトラストにとっての経営上の課題になっているといえそうです。

矢部 謙介 中京大学国際学部・同大学大学院経営学研究科教授

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やべ けんすけ / Kensuke Yabe

専門は経営分析・経営財務。1972年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒、同大学大学院経営管理研究科でMBAを、一橋大学大学院商学研究科で博士(商学)を取得。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)および外資系経営コンサルティングファームのローランド・ベルガーにおいて、大手企業や中小企業を対象に、経営戦略構築、リストラクチャリング、事業部業績評価システムの導入や新規事業の立ち上げ支援といった経営コンサルティング活動に従事する。その後、現職の傍らマックスバリュ東海株式会社社外取締役や中央大学大学院戦略経営研究科兼任講師なども務める。

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