熱海の土石流災害から2年、生かされない教訓 悪徳業者と責任放棄の行政が生み出した惨劇

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そして、業者が1.2ヘクタールの測量図面を出してくると、「図上求積であり、信憑性も欠け、正式の文書でないため、最初は、伐採届けの指導と土採取条例の指導で市が動く」(11月13日、農林事務所)と、県は関与しないことになった。

土石流災害の後、市側が「県の不作為」と指摘したのが、砂防法による砂防指定区域の指定だった(国が指定、県が管理)。盛土現場の下流に砂防ダムがあり、1999年に砂防指定地になっていた。

本来は、その上流部分も指定し、開発を規制するのが普通だが、県は放置した。県の難波副知事は、会見で「上流部指定の必要性が認められないと判断したのは行政裁量として認められる」。県は、ほかの法令も含めて判断の誤りはなかったという立場をとりつづけている。

副知事自ら職員をヒアリングした報告書

熱海市は、2022年11月に事故を検証した報告書をまとめた。

被害が出た日、市は避難の呼びかけにとどまり、より強い避難指示を発令しなかった。だが、市は「裁量権を逸脱した権限の不行使に当たるとまではいえない」とする。残土埋め立てについては、市の行政指導の経過が記されているだけである。

同様に、2022年5月に公表された県の第三者委員会の報告書は、土採取条例による対応を主眼にし、空欄のある申請書類を受理し、措置命令も出さなかった市の対応を批判した。そして市と県の連携不足を指摘していた。

一方、県所管の森林法、廃棄物処理法、砂防法についてはほとんど検証せずに終わっていた。報告書には「行政姿勢の失敗」といった厳しい言葉が踊るが、結果的に県の責任を見逃すような内容になっていた。これに齊藤栄市長が不満を表明したのは当然かもしれない。

その後、独立した第三者委員会と言いながら、公募で選ばれた事務局を担う2人が県庁OBだったことや、委員らは県職員のヒアリングをせず、難波副知事が職員をヒアリングした結果などをもとに、事務局が報告書案を作成していたことがわかった。副知事を前にして、県の失敗と判断の誤りを証言できる職員がいるだろうか。

これについて、県議会に設置された特別委員会に招致された委員の出石稔関東学院大学法学部長は次のように語った。「報告書の原案は、事務局が書いているんです。われわれが主導を取れなかったのが、あの報告書の結果だと思っています」。

特別委員会は、報告書の問題点を指摘し、県に再検証を求めると、川勝平太知事は今年6月、再検証を行うことを表明した。しかし、これまでと同じやり方なら再検証しても、出てくる結果は同じに違いない。

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