「嘘も方便」で小論文…何を書けば受かる? 「根っこから考える」子どもが受かっている

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つまりこの「嘘も方便」という成句、根底にある考え方を学問的に表現すると、「正当な目的を達成するためには嘘をつくことも許される」と言い換えることが出来よう。

小論文内で取り上げる素材としては、このような一般論でもいいだろう。しかし、ここでもまずお考えいただきたいのは、本問が医学部の入試問題であるという点だ。受験生は、本問により医学生になれるか否かのふるいにかけられているのだから、医学を学ぶにふさわしい人材であることを主張出来たほうがいい。

ストレートに答えを述べてしまうと、ここで述べるべきは「がん告知」の話以外の何物でもないのである。

そもそも、医学・医療の目的は?

前回、地方の総合病院で実際に起きた出来事を紹介したが、患者の性格を考慮し、真実をそのまま伝えるのか、衝撃を与え過ぎないようオブラートに包んで伝えるのかは熟慮が必要である。特に人間関係が熟していない患者に強烈な告知をすることは、妥当とは言えまい。これは医学部入試に限らず、社会におけるどのような問題解決にも通じることだ。

医学部の入試で問われている多様な事柄も、実は元をたどると太い根から派生している内容だから、その根を形成している思想を中心に据え考えることが大切である。

ではその思想とは何か。ここでは、「医学の目的」、「医療の目的」が何よりも重要となる。私は春先、必ず講義の冒頭で学生に話すことがある。それは、「医学・医療の目的は、人々の生命の保護と健康の増進である」ということである。

この考え方を本問にあてはめるなら、「いかなる理由があろうとも嘘はいけない」として強烈な告知をすることには、疑問が残る。患者が精神的にまいることは、果たして患者の精神的肉体的健康に有益かという疑問が生じるからである。利益がなければ、医学、医療の目的に反してしまう。

「嘘つきは泥棒の始まり」ということわざがあるように、嘘とは本来、悪いものかもしれない。通常は、自身の不都合なことを正当化するための言い訳や、相手方をだますことに使われることが多い。しかし、この嘘が、相手方にとり利益になる場合があるのである。いわゆる「境界」に位置する限界事例を考察させているのである。

医学医療の世界で起きる事柄には、通り一遍の事柄は少ない。その意味でも大学側は受験生には変化球を投げねばならない。その球を打ち返すことのできる受験生のみが、医学の門をくぐることができるのである。

ここまでは2015年の医学部入試で出題された小論文試験について、興味深い問題を取り上げ、解説を試みた。そこでここからは、同じく2次試験で課され、近時合否の判定で重要視されつつある面接試験について、若干の検討を試みたいと思う。

次ページ面接でも「写真問題」が……
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