「千と千尋の神隠し」カオナシが突然大抜擢のワケ 最初は単なる脇役だったキャラクターがなぜ?

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こうした概略を見ていくと「不思議な世界で働くことになる少女」「おっかないお婆さん」「お風呂屋さんが舞台」など、『ゴチャガチャ通りのリナ』や『煙突描きのリン』の企画を練る際に、宮﨑が重要な要素と考えていたであろう部分の影響が感じられる。

また宮﨑が舞台にすると語った「江戸東京たてもの園」は、江戸から昭和にかけての民家・商家などを移築している屋外施設。こちらは湯屋周辺にある街並みのモデルとして登場することになった。

「カオナシ」誕生秘話

『千と千尋の神隠し』は、宮﨑が当初考えていたストーリーと大幅に違う形で完成している。その転機となったのは2000年5月のことだった。

鈴木によると、宮﨑の当初のストーリー構想は次のようだった。

銭婆は最初から出そうと思っていたようですが、宮さんが最初に喋っていた内容はまるで違っていました。去年のゴールデンウィークの頃、僕と作画監督の安藤(雅司)君、美術の武重(洋二)さんと宮さんの4人で話し合いをやったんです。その時の構想では、湯婆婆をやっつけた後、背後に彼女のお姉さんの銭婆という、すごいヤツがいたことが分かる。こいつをやっつけなきゃ明日は来ないと。それを巡ってのアクション映画にしようと言っていました。(『「千と千尋の神隠し」千尋の大冒険』)

それはおもしろそうではあるものの、盛りだくさんすぎて3時間はかかる内容だった。そしてあと1年という制作期間では到底、3時間の作品など完成不可能なのも事実だった。そこで鈴木は、制作期間を1年延長することを提案。しかし、それに対し宮﨑と安藤は反対した。そこで宮﨑は、大きな決断をする。

その構想の転換について、宮﨑はこう説明する。

だから、当初考えていた展開部分を全部切り捨てて、それ以外でまとめることにしたんです。これが大きな転換点だったですね。その中で、突然カオナシというキャラクターが浮上したんです。(『千尋と不思議の町 千と千尋の神隠し 徹底攻略ガイド』)

カオナシは、千尋が初めて湯屋に入る時にそのほかの神々などに交じって、橋のたもとに立っていた名もないキャラクターである。

本当に単なる脇役だったんです。(略)それは何の予定もなくてただ立たせていただけなんです。(略)でも、映像になって見たら妙に気になるヤツだったんですよね。そうなるとこっちも「アイツはなんであそこに立っているんだろう」って考え始めるんですよね。(略)そうするうちに「あれ、使えるかもしれないな」となったわけです。極端な話、突然に役割を与えて「あなたは何者ですか? ちょっと出てきて、この映画をまとめてください」ってお願いした感じですよ。(同前)
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