子連れ記者、「子連れ出勤」を実体験してみた 抱っこで接客、授乳しながらデスクワークも

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青山店の海老澤さんはこう話す。「もともと働くことが好きだった。産後は自宅に引きこもりがちだったけれど、ここで働き始めて気持ちの転換ができるようになりました。子どもの成長を多くの人に見守ってもらえるのもうれしい」。

筆者が自分自身の育児を振り返ると、第1子を産んだ10年前は「壁が友達」だった。夫の帰宅は遅く、ママ友もほぼ皆無。マンションの小さな一室で、長男とひたすら向き合う日々を過ごしていた。職場復帰をして、ひとりで電車に乗ったときの解放感、出勤中の読書、ゆったり味わえるコーヒーに心底救われた。育児との切り替えができることが、働く意欲につながったのも確かだ。

子育てと社会が共存するように

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だが一方で、会社の廊下、駅構内、保育園までの道、家の中を走り続けるドタバタでクタクタの日々。風邪気味の子どもを預けて出社した日などは、保育園からの電話におびえながらも平静を装っていた。「子どもの病気で仕事に穴をあけるヤツ」とのレッテルを貼られたくなかった。もし子どもと一緒に出勤できていたら、もう少し余裕を持って働けたのかもしれないと思う。

ハイハイを始めたり、バイバイをしたり、新しい言葉を話したり、いろいろな「初めて」を保育園の先生からの報告で知った自分からすると、わが子のかけがえのない瞬間を一緒に見つめることができ、そして多くの人と共有できるのはなんともうらやましい。

「そんな甘い思いを抱きながらでは仕事はできない」「欲張り過ぎだ」という声もあるかもしれない。だが「保育園に預けてフルタイム」か「専業主婦」かの二者択一ではなく、その間のフレキシブルな働き方。そんな選択肢があるだけでも女性にとっては心強い。

本社で広報を担当する小松由記さんには2歳の子どもがいる。「自分の子どもが赤ちゃんのときは慣れない子育てに手いっぱいでしたが、ほかのスタッフが連れてくる赤ちゃんがかわいくて仕方がないんです。子どもはひとりでいいと思っていたけれど、2人目も絶対にほしいと思うようになった」と話す。

生きることは働くこと。子どもの存在がそぐわない場もあるけれど、子どもがいてもいい場所は思っているよりもっとある。そんな場所で働いたら、子育てだってもう少し楽になって、子どもだって産みやすくなるかもしれない。

桜井 麻紀 フリーライター

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さくらい まき / Maki Sakurai

1974年東京生まれ。元全国紙記者・編集者。2011年よりフリーライターとして、山間部の暮らしをテーマに取材・執筆してきた。現在は、小学生2人と2014年12月に生まれた二男の3児の子育てに奔走する毎日を過ごしながら、自らの今後の働き方についても模索している。

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