春闘の賃上げ、恩恵を受けたのは誰なのか 賃上げ幅急拡大に隠されたカラクリ

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年功賃金の下では、労働者個人の賃金は50歳代前半に達するまで年を重ねるとともに上昇する。その後、賃金は年をとるごとに下降する。社内の従業員の年齢分布が変化しない限り、定期昇給しかないのであれば、全従業員の総収入はまったく増えない。

一方、ベアを行えば賃金カーブ全体、すなわち全労働者に対する支払い全体が増加する。2014年以前に企業が基本給を相当量引き上げたのは、ベアが約1%だった1998年が最後である。1980年代後半には、基本給は1年に2~4%上昇していた。このため0.5%程度の上昇であっても、あるべき方向へのステップだといえる。

労働者の高齢化が賃金の下降圧力に

他方で、報道によれば、2%の物価目標の達成には、基本給の1%上昇が必要だと日本銀行は考えている。さらに、日銀が2%の物価目標に近い数値を実現したとしても、名目賃金の1%上昇は1%の実質賃金減少を意味する。

一方、高齢化が年功賃金システムを通じて賃金の下降圧力を高める。賃金は50~54歳で頭打ちになる。その後、55~59歳ではほぼ6%減り、60~64歳ではさらに30%減少する。しかし50歳以上の労働者は増加しており、年功賃金システムが賃金カットを意味する年齢ゾーンにすでに入ったか、すぐに入る労働者が増えていることを意味する。

1968年には、50歳以上の労働者は労働人口の20%にすぎなかった。今日では、この割合は40%まで上昇している。そして、全体の30%がすでに55歳以上なのだ。高齢労働者が多数派を占める日もそう遠くはない。

今年は大規模な賃上げが行われると予測する見出しを信じる前に、実際の証拠が出るまで待ってみよう。昨年の状況を思い出すべきだ。

週刊東洋経済2015年5月2日・9日合併号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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