中国が国防費増でも健全財政にこだわる理由 中国の「消費税率」は日本よりも高い17%

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翻って、日本の財政はどうだろうか。安倍晋三内閣では、2014年の「経済財政運営と改革の基本方針2014」(以下「骨太方針2014」)で、「国・地方を合わせた基礎的財政収支について、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比を半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す。」と閣議決定している。つまり、2020年度に基礎的財政収支の黒字化を目標と掲げている。

2015年度における日本の財政状況は、上記の半減目標を達成できる見込みであるものの、国と地方の基礎的財政収支赤字対GDP比は3.3%、国と地方の財政赤字対GDP比は5.1%である。基礎的財政収支はまだまだ赤字である。現時点で、ムーディーズの国債格付(外貨建長期債務の格付け)は、中国と韓国はAa3なのに対し、日本は、それより1つ格下のA1である。

さらに、今年2月の内閣府の中長期試算によると、3.5%前後の名目経済成長率が続くと見込んで、消費税率を2017年度から10%にしても、追加的な歳出削減をしなければ、2020年度の国と地方の基礎的財政収支赤字対GDP比は1.8%(赤字額は9.4兆円)、国と地方の財政赤字対GDP比は4.5%となる見通しである。

2020年度に基礎的財政収支が黒字化しなければ、今の中国の財政運営目標さえも満たさない状態である。ちなみに、日本でいう消費税にあたる中国の増値税の税率は、17%(標準税率)である。

なぜ中国は、健全財政運営を強く意識しているのか

中国は、健全な財政運営を強く意識しているといってよい。その理由について、一つの見方を紹介しよう。

中国では、清王朝は、放漫財政がたたって、19世紀に西欧列強の干渉を許してしまったこと、共産党が倒した国民党政権は財政難により統治基盤が弱体化したうえに、それを通貨増発で賄おうとして悪性インフレを起こし人心が離反して崩壊したことを、中国共産党のDNAとして刷り込まれているという見方がある。歴史は、不健全な財政が国を危うくすることを物語っている。

「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を閣議決定した安倍内閣。「国の存立を全う」するためには、財政を健全にしなくてはならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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