私たちが「孤独を埋めてくれるAI」にのめり込む日 メンタル不調に寄り添う「AIセラピスト」も登場

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今後もっとAIチャットボットが高度化し、「デジタル治療」などで実績を積み重ね、ユーザーの心理的安定に寄与するだけでなく、困難や逆境に耐えるレジリエンスやコミュニケーション能力、創造性といった側面でプラスの働きを促進できるようになったとき、もともと多様なネットワークに支えられ健康体である人々がより超人的な能力を手にするようになるのだ。片や、そもそも関係性が希薄で、社会的孤立に近い状態にある人々との格差は開いていき、当然ながら職業生活やプライベートの状況にも波及していくだろう

「AIセラピスト」や「AIメンター」が担う役目

ただ、真に厄介なのはその先にある問題かもしれない。人口減少と超高齢化、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の脆弱化によって、近い将来、寂しさを紛らわせたり、心理支援に代わる役目を、「AIセラピスト」や「AIメンター」が担うことがデフォルトになっている可能性があるからだ。

むしろAIのほうが自分のことをよく理解しており、質の高い交流が得られるとなれば、「AIパートナー」という形で人生の伴侶となる例も珍しくはなくなるだろう。AIとのラブロマンスを描いた映画『her/世界でひとつの彼女』で、主人公の男性がAIを内蔵したOS「サマンサ」を自分のアイデンティティにとって不可欠な存在だと認識するようになったように。きっと「AIフレンド」が当たり前になった「AIネイティブ」の子どもたち特有の問題も顕在化していくことだろう。

あえて暗い未来予測をすれば、荒廃した社会にもはやかつてのような人の温もりはなく、在りし日の面影として記憶されるしかなくなった良心を、その記憶のない世代が良質のAIによって学習することになる――そんなディストピアが浮かび上がる。

だが、これはいわば過剰な期待感の裏返しといえるものであり、議論としても粗雑過ぎるだろう。最も重要なことは、それすら「ないよりはまし」と評価せざるをえなくなる時代と、わたしたちが今後どう向き合っていくのかという問い掛けのほうである。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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