「法令遵守」的な対応が事態を悪化させる--『組織の思考が止まるとき』を書いた郷原信郎氏(弁護士、名城大学教授)に聞く

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──法令を遵守すれば、それでいいわけではない?

「法令遵守」的な不祥事対応は事態をいっそう悪化させる。旧社会保険庁に対する信頼が崩壊し、組織全体が「犯罪者集団」のように見られることになってしまった最大の要因は、一連の不祥事に対する対策が、単純な法令遵守に偏りすぎていたためだ。

法令に違反した者に対して最も峻厳な制裁である刑罰を科す判断を行う検察は、まさに法令遵守の中心的存在だ。その検察の組織自体をめぐって起きた今回の不祥事は、法令遵守という意味のコンプライアンスが日本の社会にもたらしている歪み、弊害を象徴している。

コンプライアンスを「社会の要請に応えること」ととらえ、その観点から検察の組織のあり方を考え直すことを通じて、あらゆる組織のあり方を根本から問い直していくべきなのだ。

──それだけ、法令と社会の実態とに乖離が大きいですか。

乖離は司法に限らない。医療の問題にも、日本においては共通の構造がある。医療をめぐる社会の構図は徐々に変化し、患者側の要請も大きく変わってきた。だが、医療側の考え方はなかなか変わることができない。それが、医療をめぐるトラブルをさまざまな形で発生させている根本的な原因である。医療においても、コンプライアンスをめぐるものだととらえて、問題解決を図ることが重要だ。

(聞き手:塚田紀史 =週刊東洋経済2011年4月16日号)

ごうはら・のぶお
1955年生まれ。東京大学理学部卒。83年検事任官。東京地検検事、公正取引委員会事務局審査部付検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを歴任。2006年、検事を退官、弁護士登録。08年、郷原総合法律事務所を開設。09年から総務省顧問を務める。

『組織の思考が止まるとき』 毎日新聞社 1575円 285ページ

  

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