(第60回)復興への投資は巨大な有効需要か?

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 これはデータでも確かめられる。鉱工業生産指数は、94年12月の95・1から95年1月に92・6に低下したものの、3月には早くも95・5に回復した。日本全体のGDPが減少するという現象はまったく見られなかった。それどころか、県民所得統計における兵庫県の数値はおろか神戸市の数値さえ、95年度は低下しなかった。住宅投資、設備投資にも前年度からの大きな変化は見られない。公的資本形成がわずかに増えたと認められる程度だ。

今回はクラウディングアウトを引き起こす

今回の震災からの復興過程では、何が起こるだろうか? 被害を受けた生産設備は、急速に復旧するだろう。したがってサプライチェーンも復活するだろう。しかし、電力が深刻な制約として残る(これは内閣府試算では考慮されていない)。

東京電力管内では夏の需要を約4分の1カットする必要があり、冬にも制約があることを考えると、年間電力使用量を7%程度削減する必要がある。他方、東京電力と東北電力の管内の電力使用量は、全国の約42%を占める。したがって、日本全体の電力使用は、年間で3%程度縮小すると考えられる。

現代の経済活動では、電気が必要不可欠であり、これがボトルネックになって生産拡大が制約されてしまうのである。こうした事態は初めてであり、生産活動にどの程度影響を及ぼすかについて、過去のデータから評価するのが難しい。計画停電方式で電力供給が止まると、生産再開に時間がかかるので、3時間の停電で生産ラインが6時間止まるともいわれる。そうしたことがあれば、今年度の生産活動が3%以上減少してしまうこともありうる。

電力制約を回避するため、西日本への経済活動の移動が起こるだろう。しかし工場が移動すれば、それをサポートするサービスも移らざるをえない。こうした移動が迅速に行われるかは不確定だ。

仮に迅速に行われたとしても、それで問題が解決されるわけではない。2009年度における東京電力と東北電力の特定規模需要(電力自由化の対象となっている部門)の電力販売量の合計は、中部電力と関西電力の合計の1・3倍だ(下グラフ)。


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