政府の避難指示に振り回される南相馬。それでもパン屋は無料のパンを焼き続ける

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 只野さんの店から道路をはさんで反対側には原町第一小学校があり、震災後、避難所となっている。一時、150名ほどだった避難住民も、多くが市外に逃れて一時は70名ほどに減ったが、その人たちも戻ってきたため、再び、避難民は140名ほどになった。したがって、只野さんのパン作りも大忙しだ。

只野さんは、面倒をみてきた子供野球チームの練習もいずれ再開したいと考えているが、練習場だったグラウンドはいま、ゴミやガレキの集積場となっている。活動再開のメドはまだ立っていない。

そのうえ、政府は福島第一原発から20キロメートル~30キロメートル圏の住民への避難勧告を検討し始めた。南相馬の中でも、原町地域は25キロメートル圏であり、場合によっては、避難勧告の対象になりうる。

「避難となれば、すべての再開にメドが立たなくなるだろう」。只野さんは心配顔で、こう話す。

南相馬市では、震災の影響が大きかったため、小学校などの始業は4月15日に遅らせた。しかし、その日も近づいている。学校が始まってから避難勧告となれば、子どもたちは混乱のうちに、準備不足のまま、転校せざるを得ない。心理的なダメージが懸念される。

政府は現在、被災地域の実情をきちんと把握しないままに政策を実施しているという批判が高まっているが、教育現場への配慮もせずにこのタイミングで勧告を出すとなれば、批判は免れないだろう。政策発動には、被災地、被災住民への十分な配慮が欠かせない。
(浪川 攻、撮影:梅谷秀司=東洋経済オンライン)
  

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