日本企業の「付加価値ビジネス」は限界なのか 過度な価格競争が招いた「製造業」の地盤沈下

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ドイツは長年、「独り勝ち」という指摘をされてきた。かつて日本は、ドイツに比べて人口や企業数、GDPのいずれも約1.5倍程度だった時代があった。しかし、現在のドイツは、年間労働時間が日本の3分の2しかないのに賃金は日本の1.5倍もある。

 この理由を、日本と異なり価格競争に関心を示さなかったからだと指摘する人は多い。家電やカメラ、時計、スマホなどの製造から撤退。日本のように既存製品の生産に執着せず、韓国や中国といった新興勢力と価格競争もしていない。その分、ITなどデジタル化を進め、医療機器やバイオテクノロジーなど付加価値の高い製品開発に集中的に投資してきたのだ。

企業の付加価値はどうすれば上がるか

一口に企業の付加価値を上げると言っても、いわゆる特効薬はない。とはいえ、日本の場合「労働生産性が低い」「雇用の流動性が低い」「中小企業が多い」「新商品や新市場を開拓するパワー不足」「デジタル化の遅れ」といった課題はわかってきている。

そんな中、企業への刺激となりうる取り組みも出てきた。東京証券取引所が上場企業に対して「PBR(株価純資産倍率)改善」を要請したのだ。PBRは純資産に対する時価総額の大きさを示す指標。投資家が事業遂行のために企業に委託している資金を「純資産額=投下資本」と考えれば、株式時価総額から純資産額を差し引いた額は付加価値とも言える。つまり、PBRが高ければ、それだけ付加価値を生んでいるというわけだ。

東証が重い腰をあげたことで、海外投資家は即座に反応した。4月には2兆2300億円(東証プライム市場)の海外投資家による買い越しがあり、5月19日の日経平均株価は3万808円とバブル後高値を更新している。

こうした動きを受けて、上場企業を中心にPBRの向上を意識した経営スタイルが確立されていくはずだ。PBR向上のためには、人件費のカットや生産効率の向上といった部分に加えて、新商品の開発や新市場の開拓、イノベーションへの取り組みが必要になってくる。

日本では政府による数多くの補助金制度がある。たとえば、政府によるデジタル投資支援策ひとつをとっても、経済産業省・中小企業基盤整備機構、中小企業庁、日本政策金融公庫、厚生労働省といった省庁が複数の補助金制度を用意して、お金をばらまいている。

企業のイノベーションを生み出すためには、単に補助金をばらまくだけでは不十分だろう。本当に企業の付加価値を上げるための制度作りを、省庁をまたいで展開すべきだ。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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