日本の自動車メーカー、回復への長い道のり《ムーディーズの業界分析》

拡大
縮小


間接的被害--長期にわたるマイナスの影響の拡大

被害を受けた工場の修復よりも懸念される点は、電力不足およびサプライチェーン上の障害が生産正常化に与える影響である。これらについては、短期的な解決が見込まれず、長期にわたって自動車メーカーの業績にマイナスの影響を与えるものと考えられる。大半の自動車メーカーは、11年3月31日を期末とする10年度最終四半期には、減益になるものとムーディーズは予想している。しかし、第1~3四半期に利益を確保していたため、通年ベースでは依然として黒字を維持できるであろう。
 今後、少なくとも11年上半期には、生産停止、エネルギーコストの上昇、主要調達先の代替の必要性、新車に対する国内消費者需要の低下により、利益が圧迫される状況が続くとみられる。

電力および部品供給への打撃

組立工場の稼働に必要なインフラ(電力および部品供給)上の障害により、設備への直接的被害よりさらに長期にわたって問題が生じることとなった。

電力不足

電力不足および輪番停電により、通常生産の回復が困難となるだろう。大半の自動車メーカーの自動車生産工場は、地震と津波の被災地より南に所在しているが、多くは東京電力の営業エリア内にある。東京電力の営業エリアにおける電力不足(特に夏季のピーク時)により、これらの多くの自動車工場が輪番停電の対象となる可能性がある。

自動車メーカーは、電力会社との交渉に基づき、電力供給計画に合わせた生産体制シフトへの調整が必要となるだろう。しかし、その結果、操業体制の効率は低下する。各社は、電力不足を部分的に補うための暫定的な電力調達を行う可能性もあるが、そうした措置はコストを上昇させ、利益率を低下させる。また、電力会社が発電能力を追加すれば、そのコストが上昇し、自動車メーカーの利益率をさらに圧迫する。

また、次に詳述するとおり、今夏のエネルギー需要がピークを迎える時期には、電力不足の問題が悪化すると考えられる。そのため、節電に向けての政府の取り組みに協力すべく、自動車メーカーは少なくとも11年上半期を通じて、国内工場での低い稼働率が長期化する可能性がある。低い稼働率は、単位生産コストを上昇させ、収益性をさらに圧迫する要因となる。

自動車部品の供給

地震とそれに伴う災害により、自動車部品供給網が大きく遮断され、その重要な供給体制が通常に戻るには時間を要するであろう。国内の自動車部品メーカーの大半は、組立工場の近くに工場を有しているが、より地理的に分散した、下請け、孫請け供給先に依存している。そうした供給先の中には、工場への物理的被害が大きく、格付け対象自動車会社より経営資源が少なく、迅速な復旧が難しいところもある。

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