ソニーは、なぜ延々とリストラを続けるのか 「切り捨てSONY」で描きたかったこと

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会社を辞めてなお、「私は幸せに生きている」という元サラリーマンたちに、「あなたは会社のなかで何を支えに生き、組織を離れた後、本当に幸せに暮らしているのか」と聞き歩いていたのだった。ソニーを選んだのは、そこに友人が多く、実際に「辞めても幸せ」と答える人が多かったからだ。

そのうちに、彼らのトップだった人物にも聞いておかねばならないと思い、2012年9月、ソニーの6代目社長だった出井伸之氏にインタビューをお願いした。会長兼CEO(最高経営責任者)を務め、最高顧問を経て、ソニーのアドバイザリーボード議長を務める人物だ。彼は当時、東京・丸の内の東京銀行協会ビル16階にビジネス開発・支援会社「クオンタムリープ」を構えていて、そのオフィスで快く応じてくれた。率直で逃げない人である。

会社や人間社会はシェイクスピア

出井氏はソニー時代の思い出や引退後の生き甲斐だけでなく、リーダー論や社長時代の権力抗争についてもかなり長い時間を割いて語ってくれた。そして、「会社や人間社会は基本的にシェイクスピアで終わっていますよ」と言った。

「シェイクスピアの物語はよくできている。権力を持った人の物語が多いじゃないですか、裏切りとか、密告とか、人を殺すんだったら、首を抱いたまま、うしろから刺しちゃうとかね。会社も組織である限り、全部が清く正しく美しくなんていうことはあり得ないんですよ」

そして、トップというものは経験した者でないとその苦しみはわからないのだ、と力説した。

「清武さんが読売グループで経験されたようなことっていうのも、ソニーでは何度も起こっています。それは組織である限り、3人集まれば意見も違うし、権力を得る人もいれば、そうでない人もいれば、裏切り、密告もあるわけですよ。それに(社長として)10年も耐えていると、もういい加減、疲れてくるっていうかね。顔つきが悪くなりますよね。副社長なんか全然駄目だよね。トップはやっぱり一人なんですよね。辞めるとほっとするっていうか、顔つきが良くなりますよ」

顔つきが良くなったという出井氏はそしてインタビューから2カ月先の11月に、六本木ヒルズクラブで取り巻きが開いてくれる75歳の誕生パーティを楽しみにしているのだと言った。それまで毎年、誕生日ごとに7~8組がパーティを開いてくれていたが、それをまとめてやるのだという。

私はがっかりした。そのパーティの模様をテレビで見て、もっとがっかりした。早稲田大学の同期生である森喜朗元総理を招き、ベンチャー起業家や元部下ら約200人に紹介していた。会場にNHKの取材クルーを入れ、大はしゃぎに見えた。パーティ開催には何の問題もないが、その時期は「管理職の3割削減」の号令のもと、ソニー本社の中堅社員までが大量にリストラされ、会社を追われた時期である。

私はこう考えた。トップにしかわからない苦しみはきっとあるのだろう。だが、そのトップが理解しようとしない社員の呻吟があるのだ。丁寧に取材してそれを描こう。

もう2年半以上も前のことである。

講談社『本』5月号より

清武 英利 ジャーナリスト

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きよたけ ひでとし / Hidetoshi Kiyotake

1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、読売新聞社に入社。社会部記者として、警視庁、国税庁などを担当。中部本社(現・中部支社)社会部長、東京本社編集委員、運動部長を経て、2004年8月より、読売巨人軍球団代表兼編成本部長。2011年11月18日、専務取締役球団代表兼GM・編成本部長・オーナー代行を解任される

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