2014年度の賃金は前年割れだった! 「官製」春闘の効果は薄く、2015年度にも不安

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2015年3月の速報が公表され年度ベースの数字が分かるのは4月末。だが、みずほ証券が作成した所定内給与の季節調整値による2014年4月~2015年2月(確報値、2月分は4月17日発表)の平均値は、修正後の数値では前年同期比0.2%の下落となっている。「賃上げの波及は限定的だった」とみずほ証券の末廣徹マーケットエコノミストはいう。

安倍晋三首相は今国会での施政方針演説で、「昨年、過去15年間で最高の賃上げが実現しました」と成果を喧伝したが、これは大手企業に限った現象だったことが明らかとなった。政府の要請が利くのは、主に円安が収益にプラスであって、政権との関係や企業イメージに配慮が働く輸出大企業。「官製」の限界が露呈した形だ。ちなみに過去15年で所定内給与が前年を上回ったのは2000年と2005年のみだ。

2015年度の所定内給与も期待薄

ここからの焦点は2015年度の賃上げとその波及効果がどうなるかだ。
 連合がまとめた2014年の春闘の賃上げ率は2.07%。2015年度については、最終的に結果が確定するのが7月。内閣府は、連合の第2回集計の2014年度と比べた上振れ分と同程度が、最終着地でも上乗せされると想定し、2015年度の賃上げ率を2.2%と推計している。

みずほ証券が、連合の春闘の賃上げ率の上昇と毎月勤労統計の所定内給与の伸び率との関係を1990年以降のデータで試算したところ、春闘の賃上げ率の上昇1%に対して、所定内給与は1.26%上昇する関係にあるという。

そこで、仮に内閣府推計の2.2%を前提に、所定内給与の伸びを試算すると、賃上げ率の上昇分は2.20%と2.07%の差0.13ポイント。所定内給与の伸び率はこれに1.26を乗じた0.16ポイントでほぼ横ばいということになる。

ただしみずほ証券の末廣氏は、「消費税率引き上げ後の内需低迷や円安によるコストの上昇から、中小企業は2014年度の前半より厳しい環境に置かれている」と指摘、「賃上げの波及は昨年より弱く、所定内給与も前年割れが続く可能性がある」と見る。

「週刊東洋経済」2015年4月25日号<20日発売>「マクロウォッチ」に加筆)

 

 

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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