東大総長賞の4人はなぜ「突き抜けた」か? 昨年度の受賞者の素顔

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航空宇宙工学の世界とは無関係な人たちも世界にはたくさんいることを知った。もっと広い世界を見なければ。長期休みのたびに貧乏旅行に出掛け、アジアを中心に40カ国ほどを旅した。いつしか、途上国のために貢献したい、と思うようになった。

では、具体的には何をすべきか、悩み続けた。修士課程に進んで最初の夏休み。大手IT企業でのインターンの際、飲み会の席で進路の悩みを打ち明けたら、少し年上の男性にガツンとやられた。

「いい年なんだから、モラトリアムもいい加減にしろよ」

カッとなって言い返したものの、「その通りだ」と感じた。

一人暮らしの部屋に丸2日間こもり、A4コピー用紙にボールペンで「将来何をしたいのか」をひたすら書き出した。紙をとじこんだクリアファイルが満杯になるころ、答えが出た。BOPビジネスがやりたい──。

「パイオニアになれる」

BOPビジネスとは、途上国の低所得者を対象に、貧困が引き起こす社会的な課題を解決するため、儲けを確保しながら続けていく事業だ。場所は西アフリカ。アジアなどに比べて在留邦人が少なく、「パイオニアになれる」と考えた。

とはいえ、いきなり一人で現地に乗り込んでも何もできない。そう考えて日本のNPOのインターンとなり、バングラデシュの農村で理科教材を作る事業に参加。途上国の人たちとの共同作業の経験を積んだ。

修士課程を終えた春休みに西アフリカ8カ国を初めて回り、ガーナの工業高校にある市民工房「ファブラボ」にわたりを付け、ここに何度か滞在して技術指導をしながらビジネスプランを練った。

そんな青木さんを冷ややかに見つめる人もいた。活動の準備のため、修士1年のときに1年休学したときは、「あいつは永遠の自分探しの旅に出た」と言って離れていく友人もいた。

均質化する東大の中であえて異端の道を歩もうとすれば、当然軋轢も生じる。だが、東大はそんな青木さんを「総長大賞」に選んだ。異文化、異なる価値観とのぶつかり合いの中から、自分の道を切り開いたたくましさを評価したのだ。

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