HPVワクチン「男性も接種したほうがいい」の理由 頸がんだけじゃない、陰茎や咽頭がんの予防も

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HPVワクチンは、男性の一部のがんも予防するようだ。2011年11月には、男性の同性愛者における肛門の前がん病変を半減させたという臨床研究が、アメリカ『ニューイングランド医学誌(NEJM)』に報告されている。この臨床研究を受けて、アメリカFDAは9~26歳の男女に対して、肛門がんや関連する前がん病変などの予防目的にガーダシルを承認した。

HPVワクチンの口腔・咽頭感染への影響については、まだコンセンサスはない。メルク社は、2020年2月から6033人を対象に、後述する「ガーダシル9」が口腔や咽頭の感染を予防するか検証する第三相臨床試験を実施中だ。

頭頸部がんの予防は重要だ。アメリカ政府は事態の重大性を鑑み、臨床試験でがんの予防が証明されるのを待つことなく、2020年6月、頭頸部がんの予防に対して、「迅速承認制度」という仮免許の形で承認した。現在、メルク社が臨床試験を実施中だが、希望するアメリカ国民は接種可能だ。

余談になるが、HPV感染は思わぬところにも影響しているようだ。

まだ十分なデータは出揃っていないが、男性不妊との関係も報告されている。詳述しないが、HPVウイルスが精子表面に結合し、精子の運動能などに影響することや、すでに感染した患者でも、HPVワクチンを接種することで、精液への感染を減らすことができたという研究が発表されている。今後、この領域の研究が加速するはずだ。

世界は男性への接種を推進

話を戻そう。世界は男性に対するHPVワクチン接種を推進している。

2011年10月にはアメリカ疾病対策センター(CDC)、2012年2月にはアメリカ小児科学会が男児への接種を推奨し、北欧やイギリスとともに定期接種として接種を進めた。この結果、青少年の接種は進み、2013~2018年の間に18~26歳の男性の接種率は8%から27%と、女性(54%)の半分まで上昇した。

HPVワクチンの改良も進んでいる。メルク社は、HPV-6、11、16、18型の4つの型を標的としていた従来型のガーダシルを、HPV-31、3、45、52、58の5つの型にも有効な「ガーダシル9(日本名シルガード9)」を開発した。2014年12月、FDAに承認されている。

同社は、ガーダシル9の適応拡大を進め、2018年10月には、アメリカで27~45歳の男女への接種も承認されている。約3200人の27~45歳の成人を対象に実施した同社の治験で、子宮頸がん、子宮頸部前がん病変、外陰・腟前がん病変、陰部疣贅などを88%予防したという。既感染者に対しても一定の効果が期待できる。

世界は、接種率をさらに向上させるために、さまざまな研究を進めている。例えば、2018年にアメリカ・ルイビル大学の研究チームが『パピローマウイルス・リサーチ』誌に発表した研究によれば、若年世代のワクチン接種には、親の態度(オッズ比5.32倍)、ワクチンの無料化(同1.90倍)が影響すると報告している。

このような研究を基に、親への啓蒙活動を強化するとともに、ワクチンの公費負担を進める議論が進んでいる。極めて合理的な対応だ。

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