80過ぎて「病院要らずの人」が健診より重視する事 五木寛之×和田秀樹(対談・前編)

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和田:同様に、今の医学者たちが言ってる「血圧を下げろ、血糖値を下げろ、塩分を取るな」というのも、あくまでも確率論として正しいだけです。個人に寄ってみたら、塩分をもっと取ったほうがいい人だっているかもしれないし、血圧が少し高いほうが調子がいい人もいるかもしれない。それは確率論ではわからないのだから、体調や体の声を聴くしかないんですね。

実験精神が足りない日本人

五木:僕は扁平足でしてね。子どものときから「べた足」って言われてよく笑われた。扁平足だと、足の裏の外側に体重が掛かるため、どうしてもO脚になりがちなんですよ。それを矯正しようと思って、最近は足の裏の親指に力を入れて、蹴り出すような歩き方をためしているんです。

五木寛之さん

歩くことに関しては、いろいろやってきましたね。インターバル歩行といって、ゆっくり歩くのと早歩きするのを繰り返したり。歩くこと1つでも、無限の興味と楽しみがあって。ほんとに面白い。

視力に関しても、ヒマな時間があると、目に10センチほどの距離に近づけた腕時計の秒針を凝視して、その後に遠方の景色を見る動作を、繰り返しやったり。そのおかげかどうかわからないけど、裸眼で新聞が読めるようになったんです。以前は老眼鏡なしでは、見出しぐらいしか読めなかったんですけど。

和田:五木さんは実験精神が旺盛ですよね。歩き方であろうが視力であろうが、うまくいかなかったらやめて、また別のことを試されています。でも日本人って、実験をしない国民性があるように僕には思えるんです。例えば、学校で理科の実験をやるにしても、失敗しない実験しかさせないわけです。だけど、実験の醍醐味は失敗することで、失敗してうまくいかなかったから次はこう変えてみようという試行錯誤が重要なんですね。

『シン・養生論』五木寛之
きょうの養生、あすの往生──。「歩行は10本の足指をフルに使って」「誤嚥を防ぐ嚥下のコツ」「膨大な健康情報の判断こそ“実感”で」など、長年、「体が発する信号=身体語」に耳を傾け、不具合を治めてきた“体感派”作家によるフリースタイル養生論。齢90を越えて進化し続ける、心と体の整え方

政治だって、自民党の政治を積極的にいいと思っている人って、あんまりいないと思うんです。ところが「失敗するよりましだから、現状維持がいいや」としてしまう。失敗していくうちに成長するというのは当たり前のことなのに、日本人って失敗ばかり恐れて試さないんですよ。試すとか実験といっても、大げさに考える必要はなくて、入ったことのない店に行くだけでも、じつは実験だと思うんです。

五木:それは、すごく大事なことです。僕は50ぐらいの頃から、毎年テーマを決めて、いろいろやってきました。歩行、そしゃく、呼吸とか。一時期は嚥下、飲み込む力についても、自己流のトレーニングを続けてたこともある。

これは面白かった。人は固い物を飲み込むだけじゃなくて、水を飲んでも誤嚥する危険性があるんですよね。それで「飲み込む力を強めるためにはどうすればいいのか」というテーマで、ずいぶん熱心に嚥下の工夫をしました。何気なく水を飲むときも、水が喉をなめらかに流れるかどうかを意識する。嚥下も本当に奥行きが深くてね。こんな面白いことはないと思う。

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